Wienで「使える」アプリまとめ

2011年7月2日

2011.12.31., 2012.01.01., 2012.01.09. 増補改訂。

特にお薦めのものに☆を追加した。

Freewave ☆☆ 無料WiFiスポット検索アプリ。かなり多くの場所で使える。詳細は過去記事参照。

qando ☆☆☆ 公共交通機関の時刻表・乗り換え案内。公式。 qando Mobile Ticket または Wiener Linien アプリ(下記参照)と連携して、チケット購入もできる。オフラインでは時刻表表示もできなくなってしまうところが難点。

ÖBB SCOTTY mobile ☆☆☆ 乗り換え案内は実はこれが最強かもしれない。オーストリア鉄道の公式アプリだが、市電、バスなども含めて検索してくれる。これもオフラインでは使えないのが残念。ウィーンの森を歩き通して田舎の町にたどりつき、ただ一本のウィーン直行バスを逃してあわててこのアプリで検索し(3G回線利用)、終バス終電を5つぐらい乗り継いで無事帰り着いたことがある。

Wiener Linien 簡単な登録で、90分のシングルチケットから一カ月定期券まで、アプリ内でウィーン市内交通のチケットが購入できる。学割チケットも扱える。qando と連携する。

NUMO Wien ☆☆近隣の駐車スペース、駐車場、公共交通機関の駅、空港への乗り継ぎ案内、タクシー・プール、市営レンタサイクルステーション、カーシェアリングなどなどの情報を盛り込んだアプリ。駐車チケットを購入したりタクシーを呼んだりすることもできる。同種のものに、Vienna Location Service がある。

Open Pins Vienna 近隣の施設を、図書館、病院、博物館、公衆トイレ、警察、児童公園などなど、カテゴリー別に地図上に表示するアプリ。Facebook, Twitterとも連携。ドイツ語。無料。

CAT Vienna Guide 空港と市内を結ぶ鉄道CATのアプリ。時刻表、簡単な市内ガイドを含む。英語・独語

iAustria オーストリア観光局の公式ガイドアプリ。英語。

Austria これも当局の観光宣伝用アプリ。日本語表示も可。あまり実用的な感じはしない。事前に眺めて楽しむ感じ。

Vienna Shopping Guide 名前の通りのショッピングガイド。英語。有名どころがほとんどで、掲載数はあまり多いとは言えない。たとえば書店は英語書籍を扱っているところが中心で、文盲の英語圏の人間を相手にしていることが分かる。地図、GPSと連動するので、ウィーンが初めての場合はそれなりに重宝するかもしれない。もっとユニークな店のガイドとして、Vienna Unlike というアプリがあったが、現在は入手できない模様。

Vienna City Guide ウィーンの観光ガイドアプリは英語独語で有料無料無数にあるが、無料のわりに使えそうなのはこのへんか。GPS対応で地図も見られるし、AR機能も付いている。英語。

ウィーン旅行ガイド ガイドアプリで日本語化されているのは多分これだけ。

Öffnungszeiten Österreich ☆☆☆ 近くのスーパー、ドラッグストア、パン屋、ファストフード、カフェ、銀行、郵便局、薬局、花屋などを地図上に表示し、開店時間も教えてくれる。非常に便利。

Wien isst ☆☆ 地元情報誌Falterの飲食店ガイド。地元紙だけに掲載数が多く情報が濃い。30日間は無償で試用できるが、その後はアプリ内購入で¥800払う必要がある。ドイツ語。

Mittagessen ユーザーの投稿によって、近隣(オーストリア国内)の飲食店の昼食メニュー情報を表示するアプリ。無料。

wien.at Infoblatt ☆☆ ウィーン市の月刊の広報誌をiOS上で読むことができるアプリ。直近のイベント情報などを知るにも便利。動画・音声が埋め込まれているページも少なくない。ドイツ語。なお、ウィーン市のサイト は、生活者の視線から分かりやすく纏められているうえに、iOSでの表示にも対応している。

Wiener Städtische Events 市の主要イベント、Popfest, Stadtfest Wien(以上5月ごろ), Festival der Bezirke, Donauinselfest (以上7月ごろ)のガイド。会場の消防、警察、救護所、手洗い、遺失物預かり所、案内所などの詳細な情報を含み、緊急電話の機能もある。

mobil inwien ウィーンのイベントガイドアプリはいくつかあるが、手頃なのはこのあたりか。演劇、コンサートなど直近のイベントを中心に、ライフスタイル、ショッピング、ナイトライフ情報を紹介する。

Immobiliensuche-Wohnnet.at この春から半年住むため、アパート探しに使ったのがこのアプリ。価格、地域など条件を設定しておくと、合致した物件が出たときに通知してくれる機能もある。

Wiener Konzerthaus ウィーン・コンツェルトハウスの公式アプリ。プログラムを表示し、チケット購入もできる。

Wiener Staatsoper ウィーン国立歌劇場の公式アプリ。こちらはアプリ内でのチケット購入はできず、電話または予約サイトに飛ばされる。

Kunsthistorisches Museum Wien ウィーン美術史美術館の公式オーディオ・ヴィジュアルガイド。ドイツ語。

MUMOK 現代美術館の公式ガイド。

Citybikes 市の無料レンタサイクルのガイド。類似アプリに、bikarWien Citybike がある。

Radln in Wien ウィーン市内の自転車道、自転車優先レーンをGPS連動で表示する。2点間の経路を提案するような機能はいずれ付加されるものと期待される。¥85。

Prater プラーター遊園地の公式ガイド。

Wetter.at ☆ オーストリアの天気予報。

Wetter in Wien ☆ウィーンだけの天気をさっと見るにはこちらが便利かもしれない。無料。

Wiener Städtische WetterService 同様のウィーンの天気情報。

BILLA オーストリアのチェーンスーパーBILLAのアプリ。店舗検索、チラシ、レシピなどの機能を含む。独語。

SPAR Mahlzeit! BILLAと並ぶチェーンスーパーSPARのアプリ。店舗検索もできるが、レシピ、料理用語辞典、キッチンタイマー、買い物リスト、食品情報などに重点が置かれている。

INTERSPAR Weinwelt.at チェーンスーパーSPARのワインガイド。SAPRが扱っているワインなら、バーコードを読み取って詳細情報を表示させることができる。特売、掘り出し物情報(要するにチラシ)を見たり、オンラインで注文することもできる。

BamS – Klassiker der Küche ドイツ語圏でスタンダードな料理のレシピアプリ。ウィーンに住んで、手に入りにくい食材を求めて和食を作ることもあるまい、「こっち」の料理を少し覚えようと思って使い、重宝した。見やすく出来てもいる。特にウィーンでもオーストリアでもないのだが、ヴィーナーシュニッツェルやグーラシュ、カイザーシュマルンあたりはもちろんカバーしている。

Lieferservice.at ピザなどの宅配業者を検索し、注文できるアプリ。

Erste Bank – netbanking 名前の通り、Erste Bank のネットバンキングができるアプリ。支店・ATM検索、投資情報、ローン計算機などの機能もある。

Parking Zones Vienna ウィーン市内の短時間駐車ゾーンを地図上に表示するアプリ。

A1 HANDY Parken ウィーン他オーストリア主要都市の駐車チケットをSMSを利用して取得するアプリ。オーストリアの携帯事業者A1と契約している必要がある。

Parken Wien やはり駐車チケットをSMS利用で取得することができるアプリ。ウィーン市内限定の代わり、通信事業者は選ばないようだ。

NOUS-Guide Adventkalendar 洒落たデザインのアドヴェントカレンダーの形でウィーン各所のクリスマスの市を紹介するガイド。

textunes eBooks ドイツ語の電子書籍ブラウザ・リーダーだが、ドイツ語OKな方には、ここで読める Wien – Im Beisl Ihrer Majestät をお薦めしたい。(カテゴリー “Reise” の中にある。)グラーツ出身の二人の著者(Kabarettisten…漫才師とでも訳しておくか)がウィーンに移り住み、次第に馴染んで行った経験に重ね合わせてウィーンの諸相を紹介する、軽い読み物。情報源へのリンクも多数張られており、実用性もある。¥800だが、サンプル版で最初の3章、Wo sind die Wiener? / Durch Wien durch / Der Naschmarkt は無料で読める。Kindle版紙バージョンもある。

聴いて学ぶこと

2011年6月4日

以前に外国語のカナ表記について触れて、「所詮カナによる音訳は原音を表せるわけではない、と言ったけれど、しかし本当はこう言うべきだろう、〈文字は音を表さない〉と。文字に音を見出すことができるのは、すでにその音を知っている者だけだ…。」と書いた。外国語は、ネイティブの発音を大量に聴くことなしに、まともな発音、発声、メロディに到ることは不可能だ。同じことは音楽についても言える。

鈴木メソッドは、ボウイングの指導のしかたは滅茶苦茶だし、教本の鈴木鎮一のフィンガリングもセンスのかけらもない(左手のフレームという概念が欠落している。驚異的な長寿ののちにお亡くなりになって、教本も改訂されるかと思ったが、その動きはないようだ)が、「レコード」を聴いて真似るよう試みさせるという一点が、その一点だけが、正しかったと思う。

まなぶは真似ぶだという言説は日本には昔からあるのだが、そこを妙に禁欲的になって、演奏を学ぶ人に対して、初期段階から、演奏を聴かずに「楽譜を読む」ことを要求するような風潮が一部にあって、おかしなことになっている。(メトロノームな演奏が猖獗を極めているのも、原因の一つにはここにある。)まともな演奏をたくさん聴いていなければ、楽譜を「読む」ことなどできはしない。上の言葉になぞらえて言えば、「楽譜は音楽を表わさない。楽譜に音楽を見出すことができるのは、すでに音楽というものを知っている者だけだ」ということになるだろう。鈴木は音楽を幼児の言語習得に喩えていた。幼児が言葉を自ら使うようになるのは、ひたすら大量に聴いたあとだ。話すのも、ましてや読むのも書くのも、その後でしかありえない。

ドイツの、あるいはウィーンの連中は、最初から自ずと多数のまともな演奏を耳にして育っている。そういう環境ではない国で、録音音源を聴くことを禁ずるのは、まったく倒錯している。

その上、演奏のような微妙なスキルにかかわる事柄は、いまだに、すべてが理論化・言語化されているわけではない。(「すべて」が言語化可能かどうか分からないが、いまだに言語化されていない一部の問題について、言語化しようというのが、いま現在の僕自身の課題ではある。)であってみれば、実際のすぐれた演奏=パフォーマンスを聴く以外に、学びようはない。

日本語を母語としない人で、語られる日本語をほとんど耳にせず、しかし日本文学を原文で深く理解している人というのは、もしかしたらありうるかもしれない。しかしそういう人は日本語をしゃべれないし、朗読もしないほうがいいだろう。

ある程度のレベルに達した奏者が、人の演奏を聴く場合や、さらに真似する場合はどうだろうか。表面的な猿真似と深い理解にもとづいた模倣は違う、と言いたいところだが、これはかなり危うい、難しい区別だ。いずれにせよ、ここでもあまり禁欲的になる必要はないだろうと思う。以前にも書いたことがあるが、学生時代、アルバン・ベルク四重奏団のビデオを擦り切れるほど繰り返し見て、画面から分かる限りのボウイングをスコアに書き取ってみたことがある。これはものすごく勉強になった。モーツァルトの弾き方が少しは分かったような気がした。またモーツァルトとベートーヴェンでは、弓の使い方を相当に変えていることにも気づいた。(ついでながら、同団のメンバーによるレッスンは、教えられる側が何かぶつけていかないかぎり、何も教えてくれないレッスンなのだそうだ。まずは録音・録画から盗めるだけ盗んでしまったほうが賢明とも言えるかもしれない。)いや、部分的な猿真似と真摯な真似びは、やはり区別が可能かもしれない。そして後者の前提になるのは、初期段階からの「聴く」経験なのだ。

特定の演奏家の「解釈」ないし弾き方に引っ張られる恐れを口実に、聴くことを排除したがる人もいるだろう。それもあまり理由にならない。これは、というものを、真似できるものなら真似してみればいい。一度徹底的に。絶対に同一にはならない。所詮、と言うか、幸い、と言うか、自分の演奏にしかならないのだ。あとでまた他のいろいろな演奏も聴いてみればいいし、その上で、その後で、改めて自分でスコアに向き合ってみればいい。どちらかというと、こういう分野では、はなからオリジナルを目指したオリジナリティはカスのことが多い。

教本に付属する音源の質についてはコメントを控えるが、今はその他にもCDやDVDであらゆる演奏に接することができる。その中には素晴らしいものもある。

もちろん、新作初演となれば、人の演奏を聴くわけにはいかない。また、ある程度のレベルに達したら、何も聴かずにいきなり楽譜に向かい合うことも当然、時に必要だろう。しかしそれはあくまでもある程度のレベルに達したら、の話であって、最初から「聴く」ことを排除するのは、根本的に間違っていると言うべきだろう。

ヒーツィング墓地

2011年5月18日

午後、ウチから歩いていける距離のヒーツィング墓地にでかけた。ウィーンの墓地というと、シューベルトもベートーヴェンもブラームスもお寝みの広大な中央墓地が有名だけれど、あちこちに小さな墓地がある。ヒーツィング墓地はシェーンブルン庭園の裏手の丘の上にある。グロリエッテ通り Gloriettegasse を通って、シェーンブルンの西側を限る交通量の多いマクシング通り Maxingstraße に出て、坂を上っていくと、墓地の入り口がある。

ウィーンに入る前に立ち寄ったパリでは、パッシー墓地に行った。トロカデロのすぐ脇の、フォレやドビュシーの眠る墓地だ。ハイリゲンシュタットでは、偶然通りかかった墓地でホルヴァートの墓を見つけた。

ウィーンの墓地は、市当局が詳細な地図有名人の墓のリストを提供してくれているし、狭隘なパリの墓地と違って比較的ゆったりと配されているので、目当てを見つけるのはわりあいたやすい。(著名人の墓をEhrengräberと呼ぶらしい。)

R0011319まずはクリムトの墓。やはりこの書体だ。

R0011320次はヨハン・シュトラウスの女きょうだい二人、テレジア、アンナと、ヨハン・シュトラウス子の最初の夫人、ヘンリエッテの墓。男たちは中央墓地に眠っているらしい。

R0011321グリルパルツァーもここに寝ていた。

R0011323オットー・ヴァーグナーの、エンタシスの付いた柱6本の上に石を載せた巨魁な墓は、修復中のようで、足場が組まれて囲われていた。まあ、デザイン自体にも賛否ありそうだし、手入れには手間のかかる構造ではあるわな。

R0011327R0011326墓地の奥に進むと、芝刈り機の轟音が響いている。その奥、地図があってもなかなか分からなかったのが、アルバン・ベルクの墓だ。きわめて簡素で、名前も小さく記されていたのだった。そういえば、ベルクの名前も必ずこの書体だ。

R0011329そして、市当局のクリーン・キャンペーンに使われていた「ウィーンわが夢の街」のシエチンスキの墓。

R0011331R0011332墓地の入り口。その脇には、墓に供える赤いケース入りろうそくの自販機がある。

すぐそばの交差点には、バスの停留所がある。手っ取り早くこの墓地を訪れるには、ここまでバスを使う。さらに墓地の外壁南側に沿って歩き、墓地の東側に回り込むゼッケンドルフ・グーデント道 Seckendorff-Gudent-Weg に折れる。右側はシェーンブルンの敷地の一番奥に当たる。

R0011333間もなく墓地が切れると、マクシング公園。起伏のある静かで小さな公園の中の坂を下って、マクシング通りに戻る。

プラーター

2011年5月16日

R00112424月中旬の平日、プラーターに行った。ここの遊園地のことは、たいていのガイドブックに載っているし、iPhone用の無料のガイドアプリもある。観覧車は映画「第三の男」であまりに有名だ。プラーターシュテルンの駅を降りると、観覧車のある遊園地はすぐに目に入る。

 

R0011244まるでディズニーランドの(いや、この手の遊園地一般の、か)原型みたいだなあと思う。ジェットコースターの類いは、いったい何種類あるんだろうか。そのほかの絶叫マシンにも事欠かない。ウォーターシュートの人魚像がエグかった。一人で行ったから、どれか入ってみよう、やってみようという気は最初から全くなかった。遊園地自体の入場に料金を取られるということはない。外から眺めて唯一面白そうかなと思ったのはミラーハウス=迷路だった。

 

R0011243プラーターは、皇帝マクシミリアンII世が、ウィーンに近いドナウの岸辺を整備させて、自分たちの狩猟場にした。1766年以降、一般人が入れるようになり、ウィーン人にとっては初めての、街に近いレジャー地になった。1873年の世界博覧会(万国博)以降、プラーターはさらに開発される。目玉はロトゥンデと呼ばれる巨大な円蓋の建築だったが、これは1937年に焼失した。1878年には博覧会跡地に競馬場が、1897年には巨大観覧車が、1928年にはミニ鉄道が、1931年にはスタジアムが造られる。こうした建築物と、その背後の広大な森林、草地が共存している。

 

R0011245平日なのにかなりの人出だった。園内にある Schweizerhaus スイスハウスという野外席も広い食堂というかビアガーデンは、元は皇帝の賓客があたりで狩猟をするための館だったとか言われている。1868年には食堂として開業し、1920年にバドワイザーの輸入業者だったカール・コラジクの手に渡る。ここで昼ご飯かなあと思って出かけてきたのだが、平日だというのにあまりの混雑に気圧されて、すわることなく出てきてしまった。

 

R0011254この Wurstelprater と呼ばれる辺りは、普通と言えば普通の遊園地だ。僕がすごいなあと思ったのは、ガイドブックにはあまり記されていない、その先だ。遊園地の端にあるスイスハウスを通り過ぎると、まもなく遊園地の外に出てしまう。この先2キロほどを走ってぐるっと戻ってくるミニ鉄道、リリパット鉄道の線路を越えると間もなく、プラーターの軸をなす壮大な並木道に出る。三車線というか五車線というか、車は通らないのだから車線という言い方はそぐわないが、南東に向かって、あくまでも真っすぐな並木道がずどんとのびている。真ん中の広い道と、その両側に平行に走る細めの道は舗装されている。そのさらに外の両側に、土の道がある。それぞれの「車線」の間とその外側は、プラタナスの6列の並木。全長4.5キロ。ということはリング一周分と同じくらいの長さだ。果てが見えない。両側は緑地で、静かだ。地図上では見ていたが、スケール感が掴めなかった。実際にこの並木道に立って、その規模に驚く。6km2。セントラルパークの2倍近い広さだそうだ。

R0011258R0011267バギーを押して散歩する人、ジョギングする人、二人乗りのレンタサイクルを漕ぐ人、馬で散歩する人。

 

R0011261しばらく並木道を歩いて、横から入ってくる市電1番線の終点になっているところで斜め右ににそれ、土の道に入る。左右は Jesuitenwiese ジェズイットの草地と呼ばれる明るい草原とまばらな林。その先右側は驚くべき広さの児童公園がある。橇遊びのための丘もあり、人工雪設備もあるそうだ。途中、数多くの道が交差しているあたりで左に折れると深い森。果ての見えない森林の中を歩くとやがてまた並木道に出る。北側はスタジアム。その入り口に小さな屋台のような店があって、ソーセージで昼食にする。

 

R0011265それからまた並木道を離れ、Heustadelwasserと呼ばれる水路に沿った舗装された遊歩道を歩く。途中でプラーターとドナウを横断する自動車道A23/E59をくぐる。自動車道の橋の真下に橋がある。道は弧を描いて並木道に戻る。

 

R0011273さらにしばらく進むと、真ん中にルストハウスLusthausというレストランのあるロータリーで並木道は終わる。ルストハウスは八角形の建物で、皇帝ヨーゼフII世が、「だれもが入れるように」建てさせたと言う。前三月期以降、レストランになった。

 

僕にとってさらに面白かったのはその先だ。Lusthausの裏手から左斜めに、今度はLusthauswasserと呼ばれる水路に沿った道に入っていく。ここまで来る人は限られている。これまでのなにがしか整備された道と違って、この先はかなりワイルドな感じの土の道になる。倒木が多い幅の狭い道で、ここまでは自転車の連中も、ジョギングする人たちも、入ってこない。

R0011277ここにはビーバーがいるのだ。ビーバーなんて、幼い頃からアメリカ産のアニメでだけ知っていたような気がする。どこかの動物園で見ていたかもしれないが、記憶にない。その本体にはお目にかかれなかったが、その仕事のあとが、ここの水辺では無数に見られる。必ず、鉛筆の先のような円錐形に削っている。

 

R0011295

斜めにドナウ川方向に向かっていた水路と道は、川縁の自動車道の下の林道のような道に行き当たって終わる。この道を北西方向に戻る。途中、Kirchlein Maria Grün 緑のマリア小教会というチャペルが森に囲まれて建っている。Aspernallee を横断し、Stemmerallee を右に辿ると、間もなくSバーンの線路の下をくぐる。このあたりもシュレーバー菜園から発した住宅地になっている。Drechslers Schutzhaus という食堂/ビアガーデンの脇を通り、ちょっと坂を上ると、80B/77Aのバスの停留所がある。このバスで地下鉄U2のStadion駅まで行き、地下鉄で帰る。三時間の散歩。

Wien bleibt clean!

2011年5月14日

大昔、ことに犬の落とし物の多かったパリの街をオンナノコと腕を組んで歩いていて、それを踏みつけたことがある。家の中でも土足が基本の欧州では、これは致命的だ。まあ、多くの人が、自宅の中では実際はスリッパみたいなものに履き替えている印象もあるが。

IMG 3163これはウィーンに入ったばかりの4月初め、眼に留まったポスター。要するに犬の糞の後始末をちゃんとやれ、という呼びかけ。違反すると€36の罰金を取られるらしい。

このポスターを見て、最初、うわ、えげつないな、と思った。ウンコの画像を巨大なポスターにして街じゅうに貼り出すなんて、日本ではありえないだろう。そういうネタにするつもりで撮影した。

それからちょっとして気がついた。むしろこういうものを、ないこと、見ないことにする習性こそが、様々な災禍を招いているのではないか。

とは言え、ポスター制作のため、このような美しいウンコ(伝説の「キレイな×ンタマ」を思い出す)の画像を得んがために払われたであろう努力労力を思うと、やはり少し笑える。

追記:

タイトルに使った Wien bleibt clean という文句は、ポスターのスノーグローブの基部に書かれている。もちろんシュランメルの Wien bleibt Wien 「ウィーンはウィーン」のもじり。うまく韻を踏んでいる。

スノーグローブ Schneekugel というのは、近頃は日本でも、特にクリスマスシーズン、あちこちで見かけるけれども、ウィーンを象徴するアイテムらしい。起源は定かでないが、雪片を閉じ込めたものを最初に造ったのが、ウィーンで外科器具を作っていたエルヴィン・ペルツィという人物だという。

ポスターに見られる Wien, Wien, nur Du allein 「ウィーンよ、お前だけが」というのは、ルドルフ・シエチンスキ のヒット作、Wien, du Stadt meiner Träume 「我が夢のウィーン」のリフレインの一行目。

このクリーン・キャンペーン自体に関する記事が、ウィーン市当局のサイトにあって、犬の糞の他に、煙草の吸い殻、粗大ゴミのバージョンが存在するらしい。そして市はこのキャンペーンは大成功だと自賛している。

 

ある半日

2011年5月12日

子供の頃、幼稚園にあがるかあがらないかぐらいから、父に連れられて、住んでいた町のあちこちの道を散歩した。いや散歩とは言わず、「たんけん」と呼んでいた。父も土地の人間ではなかったから、そうやって自分なりの地図を開拓していたのかもしれない。小学校に入る頃には、界隈の道は細い路地までも知り尽くしていて、1年生の時、町の地図を描くという課題に詳細な図を描いてみせて、担任をびっくりさせた、と、後になって聞いた。神奈川県の田舎町で、どこか浮いていたのだろう、担任は「東京からの転入生」だと思っていたとも聞いた。だから余計驚いたらしい。

***

6時起き。昨日から調子悪かった眼は少しはマシになった気がしたが、まだあまり本を読んだりものを書いたりできる感じではなかった。

IMG 3564ここしばらくまた冷え込んでいたウィーンだが、再び気温は上がり、天気も悪くないし、少し外に出ようと思った。地図上で、近くにヒューゲル公園という小公園があるらしいことに気づき、そこに出かけてみることにする。ヒューゲル(=丘)の名がついているが、平らな公園、巨木が芝地(Wieseを何と訳すべきか未だに分からない)の上に快い蔭をつくる、普通の公園だった。1901年建立のヒューゲルさんの胸像が立っていた。オーストリアの園芸学に功績のあった人らしい。

Fr 458 size640ただ、ど真ん中が木柵で円形に囲われ、その中は幼稚園になっていて、その点では奇妙な公園だった。その向こうには、園児以外の子供も使える遊具がひと揃い備え付けられている。幼稚園は特別な休日なのか閉鎖されたのか、ひとけがなく静かだ。ベンチでぼーっとしていると、近くの高校生が教員とともに二十人ぐらいやってきて、柵の周りをぐるぐる走り始めた。走りながらも騒々しいので退散する。

今までに買い込んだハーブ苗を植えるため、プランターの買える店を捜していた。公園を出た時、ふと思いついてiPhoneの地図で検索すると、割合近くにMerkurがある。リュブリャーナでは、郊外のホームセンターふうの大型店に行ったことがある。歩いて行ってみることにした。アマーリエン通りに面したこのMerkurは(と言うかどうやらオーストリアのMerkurはすべて)、実際は大きめの食料品スーパーで、園芸用品などはなかった。しかし食料品店としては品揃えも豊富で、このあたりでベストの店かもしれない。ウチからはちょっと離れているのが難点だ。店内の一角では、美人で笑顔のすてきなおねいさんがヤクルトの試飲販売をしていて、前を通り過ぎようとしたら、声をかけられた。お飲みになりませんか? これ、日本からのでしょう? そうです、お味、いかがですか? 故郷の味がしました、ありがとう。一本飲んで、結局何も買わずに出てきた。

そのままヒーツィンガー河岸のほうに歩いて行くと、地下鉄も走る掘り割りの向こうに、OBIという看板を掲げた、大きなオレンジ色の店が見えた。この名前にはどこかで見覚えがある。案の定、巨大なホームセンターだった。この手の店を捜していたのだ。マスキングテープ(楽譜の製本用)、60cm幅のプランター、その受け皿、根セロリの種(これはいずれ日本で使うつもり)とレタスの種を買う。歩いてヒーツィンガー本通りまで戻り、市電で帰宅。前の晩に作っておいたレンズ豆の煮込みを食べる。

このアパートに入って今日でほぼ3週間。まだこうして家の周囲を少しずつ「たんけん」している状態。こんなふうにして自分の頭の中でも周囲の地図が少しずつできあがり、広がっていく。新たな場所に住みつくとは、あるいは生れ出るとは、そういうことだ。

ウィーンでの住居探しと日本からの送金

2011年5月1日

今回、アパートはわりあい早く見つけた。iPhone用の、オーストリアの不動産物件を探す wohnnet.at というアプリで。地域、購入・賃貸の別、価格帯、家具付きかそうでないかなどのフィルターを設定して、検索する。検索条件で新しい物件が出ると、プッシュで教えてくれる。

3月末に日本を出て、パリに数日いて、4月4日にウィーンに移動した。その前後には上記アプリで今いるアパートが出てきた。

たった半年の滞在だから、家具付きは絶対条件だ。それが案外少ない。前にも書いたが、十年あまり前にボンに一年住んだ時は、家具なしのアパートに入ってしまって、ベッドから机から台所の作業台から、ケルンのIKEAに行って安い家具を買ってきては組み立てる日々で、ほとんどそれだけで一年が終わってしまった。一年後、ほとんどそのまま、次に入ったチェコ人の母娘に譲って帰ってきた。マチルデ・ヴェーゼンドンクが晩年の一時期住んだと言う由緒ある?アパートだったが、畳などないこちらの住居、入った当初、座るところと言えば便器しかなく、友人からエアマットを借りて寝ていたし、カーテンはおろかカーテンレールもなく、近所のホームセンターみたいな店から電気ドリルを買ってきて、石の壁に穴を開けるところから始めた。台所の流しすらなかった。どうにか住めるようにしてから、生まれたばかりの赤ん坊を抱えた妻を呼び寄せた。まあ、住む人間が、自分の好きなように、一から作って行くということなのだろう。それはいいことだと思うのだが、一年ばかりの滞在にはこれは失敗だった。

その後、家族でリュブリャーナに半年住んだ時は家具付きにした。友人の助力もあって、ちょうどいい住まいが見つかった。で、今回も、家具付きは絶対条件。ところが完全な家具付きというのは決して多くはない。少し中心部よりも外れたところがいいなとも思っていた。なので、wohnnet.at で見つけたシェーンブルンにほど近い13区の完全家具付きのアパートに飛びついた。寝室二つ(一つは書斎兼用)、居間、キッチン、バス付きというのは、さしあたり一人住まいの今回、ちょっと贅沢なのだけれど、それが贅沢だという贅沢は言っていられない。

飛びついて、6日に、扱っている不動産屋を直接訪ねた。しかし直接の担当者はおらず、半年の滞在だと言ったらいい顔をしない。最低3年みたいなことを言われた。そうでないと、不動産屋としても礼金の実入りが悪いということだろう。がっかりしてホテルに帰る。

しかし翌日、その不動産屋からメールが入る。貸せるという。で、直接の担当者に早速電話をして、次の日に、アパートを見せてもらうことにした。行ってみると、家具はフル装備どころか、書棚には(ちょっとぬるめの)本が一杯に詰まっていた。キッチンは完備(と言ってもいまや当たり前の電子レンジや食洗機はなかった)、テレビ(と言ってもブラウン管)もPALビデオ(DVDではない)のプレイヤーもある。こういう状況で貸すということは、家具なしが普通のこちらでは、もともと貸し手は短期の借り手を捜していたということだろう。すぐに、ここでいいや、と決めた。

決めたのだが、一つ問題があった。日本と同様礼金敷金が必要なので、それなりの初期費用がかかるということだ。しかも現金払い。そのことを、あまり考えていなかった。払わなければ、入居できない。こちらに来る直前に、新たな口座を三井住友で作っておいたのだが、それで送られてきたキャッシュカードは、国外ではまったく使えないものだったのだった。大昔作って持っていた同行の口座のカードは international 仕様で、海外でも金をおろすことができた(今でもできる)。そのカードは日本に置いてきた。internationalではないのは手違いかと思ったら、三井住友は、ちょうど一年ほど前に、internationalカードの新規発行を止めていたらしい。色々と悪用や犯罪があってのことらしいが、これは困った。この口座に紐付けて作ったクレジットカードもあったが、現金の引き出しには強い制限がある。

結局、こちらの銀行に口座を開き、日本に残っている家人に、今回のために作った口座から引き出して、送金してもらうことにした。この送金がまた、えらく時間がかかるのだった。今時、すぐに片付くものと思いきや、日本で送金手続きをしても、こちらの口座にはなかなか入らない。船で現金輸送しているのかよ、という感じ。毎朝、こちらの銀行の残高をネットで確認しては、0という数字にがっかりして、ホテルのフロントに滞在延長を言いに行く日々(ホテルの支払いはクレジットカードで問題なかった)。それで、ホテル住まいが思いがけず延びてしまった。

ほぼ一週間後、入金が確認できて、すぐに不動産屋に連絡し、入居した。

国際キャッシュカードの状況については、Wikipediaが記述していることを後になって知った。これによれば、今海外で使えるカードを出しているのは、ソニー、HSBC、新生、CitiBankぐらいらしい。

ウィーンの無線LAN

2011年4月30日

ウィーンに来て結局二週間以上いたホテル、Adagio Zentrum Wien、アパートタイプで、長く居るほど安くなる。で、無料で無線LANが使える。正確には、無線LANはロビー(ソファや机の置かれた、朝食時間以外は飲み放題のカフェコーナーがある)のみで、部屋は有線LANなのだが、僕のいた部屋はこのロビーの真上だったので、部屋でも無線LANが使えてしまった。(で、有線LANのジャックのほうは壊れていた…。)

SoftBankは海外での定額ローミング・サービスをやっているわけだが、あくまでも数日の滞在向きだという気がする。なので、今回、ローミングをオンにしたことはまだ一度もない。

(半年の滞在予定という状況が、一番中途半端なのかもしれない。ローミングで使い続けていくにはちょっと長い。こちらでも料金が有利なものは、キャリアによるSIMロック、2年縛りが普通なので、2年居るのならこちらでiPhoneを手に入れてしまえばいい。で僕のiPhoneは結局いわゆる脱獄とSIMロック解除をやって、こちらのプリペイドSIMを挿して使うことにしたのだが、それはさておく。)

脱獄しなくてもローミングしなくても、無線LANさえ使えれば、ViberやSkypeで日本とも安く、あるいは無料で通話もできるわけだ。で、ウィーンはWiFiつまり無線LANが無料で使える場所がかなり多い。上記のアダージョのようにいくらかまともなホテルは皆そうだし、街中のカフェなどでも使えるところが少なくない。

オーストリアでそういう無線LANの使える場所を探すのに役立つアプリが Freewave。同名の無料WiFiサービスを提供しているスポットをリスト表示してくれる。下のPostal Code で郵便番号による検索も、Cityで町を選ぶことも、Nearby でGPSを使って近くのスポットを表示させることもできる。IMG 3384

リスト上で選んでタップすると詳細を表示する。ここから地図に表示させることもできるが、地図はGoogleマップに飛ぶので、ネットに繋がっていないと使えない。できればネットの使えるところであらかじめ調べておいた方がいいだろう。IMG 3385

実際にそのスポットに行ったら、「設定」→「WiFi」を開いて、「ネットワークを選択…」のリストの中から Freewave を選ぶ。すると図のようなログイン画面になるので、(この画像では表示されていないが)下の方の Connect ボタンを押す。IMG 3373

実際にこれで探して使ったスポットもたくさんある。市立公園に近いカフェPrückelとか、シュテファン教会に近い中心部の 1010 Bar Café とか、ヒーツィングの Mario とか。僕にとって一番のヒットだったのは、Landtmann’s Parkcafé だったかもしれない。シェーンブルン庭園のど真ん中。ネプチューンの噴水の下西側。動物園のゲートを入ったところにあるせいか、あまり目立たず客は多くない。天気さえ良ければ、観光客の喧噪の中、緑に囲まれて、意外に落ち着ける場所だった。ここではカフェ・モーツァルトのモーツァルトトルテも置いていて、美味かった。IMG 3343

ようやくホテルを引き払って、13区のアパートに入ってから数日間、ネットが開通するまで、特にMarioとLandtmann’s Caféには、MacBook Airを背負っていってお世話になった。

この Freewave サービスをやっているところは、表立って掲示したりしていないようなので(僕が見落としているだけかもしれない)、こんなふうにして調べない限り分からない。

もう一つの系統の無線LANスポットを表示するのが、WiFi Free Austria。115円。こちらもかなりの数がある。

それ以外にも、Free Wi-Fi Finderでも少し引っかかってくる。また店先の貼り紙で気づくこともある。そういうところは、独自のパスワードを設定していることもあるので、店員に尋ねる必要がある。

拍子という「謎」

2011年4月29日

拍子とは不思議なものです。拍子とは何なのかは、知られていません。拍子を語るきちんとした言葉は、まだ存在しません。──え?学校で習ったよ、強弱の、強拍と弱拍の周期的な繰り返しだって。──そう言われるかもしれない。確かに、現在にいたるまで、流布している「拍子を語る言葉」、標準的な拍子の定義は、概ねそのようなものです。音楽辞典の定義を見ましょう。

metre. Term used of regular succession of rhythmical impulses, or beats, in poetry and mus., e.g. 3/4 and 6/8 being described as different kinds of metres. Rhythm is no longer accepted as a sufficiently precise definition, metre being considered as the basic pulse and rhythm as the actual time‐patterns of the notes within a measure. E.g., in 3/4 the 3 beats—strong, weak, weak—are metrical, while the time‐values of the notes actually heard are the rhythm.
From The Concise Oxford Dictionary of Music (Oxford University Press) — © Oxford University Press 2004, 2006, 2007

これは、日本の音楽辞典が今手元にないもので、iPhone版のThe Concise Oxford Dictionary of Music の metre=拍節の定義です。こうした定義が、拍子という現象を的確に捉えていると言えるかどうか。「周期的な繰り返し」regular succession というのは良さそうに思えます。問題は「強弱」です。上の定義ではpulseとか、strong, week, week という辺りがこれに当たります。

「周期的な繰り返し」は必要です。音楽的なコミュニケーションのために、つまり聴き手が弾き手の音楽を受け取り、「乗る」ことができるために、必要です。音楽を聴く中で、次に現れてくる音楽の形を、何らかのレベルで半ば無意識に予測し、備えること。それが「乗る」ということでしょう。もちろんたとえば和声進行も「次」を予測するうえできわめて重要な働きをします。が、それだけではない。というより、和声は「次」を予測させはしますが、「周期的な繰り返し」には直結しない。

強弱での説明は、それが音楽的なデュナーミクとどう関わってくるのか考えただけで無理が見えてきます。強弱に代えてアクセントという言葉が使われることもありますが、同じことです。そのあたりに気づいている人々は、たいていの場合、「重さ」という言葉を使っています。強拍と呼ばれる拍は重い。弱拍は軽い。この軽重による説明は、「分かっている人には分かる」ように思えますし、それなりにしっくりくる部分もあります。しかし、ということは「分からない人には分からない」。

では、強弱では(必ずしも)ない、和声(だけでは十分)ではないとすると、いったい何が「周期的な繰り返し」を支えているのでしょうか。

音楽家なら、おそらく拍子のなんたるかは身体で知っている。しかしそれを言葉にしようとすると難しいし、現実に拍子の核心を捉えるような標準的な言葉は存在しません。

拍の長さの規則的なゆらぎ。それがここでの一つの答えです。と言うより、拍子というのは、間違いなく、強弱も和声もリズムも(もちろんフレージングにも)すべて絡み合った複合的な現象ですが、その中で、拍の長さというのは、特別に軽視されてきた、あるいは見過ごされてきた要素なのであって、だからこそ、この要素に着目することが、拍子という現象を(望むらくは)最終的には総合的に、改めて捉えなおしていくうえで、鍵になるのではないかと考えられるのです。

ここから逆に、従来の拍子の捉え方ないし定義の問題も明らかになってきます。アクセントや強弱による拍子の説明は、通常、拍の長さについては何も言っていません。まさにその「言っていない」ことによって、拍はすべて均等な長さを持つ(このような拍子を「均等拍」と呼んでおきましょう)のだと思われています。ここにはもちろん、メトロノームという「問題」も絡んできます。

ここで企図しているのは西洋古典音楽の拍子を捉えなおすための試論です。西洋古典音楽という言い方は、普通のようでいて、たとえば音楽学の専門家の方には異様に聞こえるかもしれません。要はいわゆるウィーン古典派から、19世紀一杯ぐらいまでの欧州の、いわゆる「クラシック」のスタンダードに属する音楽のことだと考えてください。拍子=周期的な繰り返しを表わす手段は沢山ありますし、バロック以前の音楽も、あるいは現代の日本を含めたポピュラー音楽も、どちらかというと簡明な「周期的な繰り返し」の手段を活用しており、かつむしろ均等拍を前提していたり親和性が高かったりするのですが、それに対して、この「クラシック」の拍子には特異な性質があったと考えられるのです。その特質を捉えることがここでの課題です。

まずは「強弱」について考えてみましょう。

拍子感覚のちがいを体感するには

2011年4月28日

以前に、村治佳織さんのこんな発言を引用したことがあります。

村治:[...] 私は二十歳のころ日本舞踊を半年やりました。面食らったのは拍子の取り方が上から下に落ちるような感じだったこと。クラシックは下から突き上げる拍子の取り方をするのです。その感覚がうまくつかめませんでした。

[日本経済新聞 2007.1.1 元旦第三部2面 新春対談「今に生きる東西の古典 伝統と新風で受け継ぐ」村治佳織、市川染五郎]

「上から下に落ちる」と「下から突き上げる」。これは「分かる人には」すごくよく「分かる」のですが、そうでない人に説明するのは難しい。それをどう説明したらいいのか、ずっと考えていたわけです。で、最近思いついたことは、やはり動作を通じて身体で感じてもらうのがよさそうだし、それは可能なのではないかということです。二通りの動作を、それぞれ「日本的」な拍子感覚と「クラシック的」な拍子感覚でやってみます。

1a. 指揮のような動作・日本編
いったん両腕を下に垂らします。肘から先を、水平より少し上ぐらいに楽に上げてみてください。手のひらは、そうですね、下に向けておきましょうか。そこから、ほんの少し上に向かってのテイクバックが必要かもしれませんが、腕全体がまっすぐ下に伸びるくらい、両脇に振り下ろして、また元の位置に降り戻してください。振り下ろした時、上体も自ずと少し前屈みになるのに任せます。それが「日本的」な拍子です。振り下ろしたところが拍の頭になります。
1b. 指揮のような動作・クラシック編
今度は、同じ出発位置(水平より少し上の位置)から、ちょうど水平ぐらいの位置へ下向きに叩く動作をして、それからその反動を使うようにして、肘から先を上に振り上げ、もう一度水平位置まで叩きおろして、やはり反動で自然に元の位置に戻ってください。手首の柔らかいスナップを加えるのもいいでしょう。それが「クラシック」の2拍子です。この場合、水平に叩くところが拍の頭になります。元の位置から水平位置を3回叩いてから振り上げれば、3拍子になります。
2a. 手を叩く動作・日本編
別の動作にしてみましょう。先ほどと同じようにいったん腕を垂らし、肘から先をほぼ水平よりちょっと上に上げ、今度は手を垂直に、手のひらが内側に向かい合うようにします。そこから、肘より先を、おへそのあたりの高さに向かって振り下ろして手を打ち合わせ、また打ち合わせたときの軌道を逆に通って元の位置に戻します。この場合も、振り下ろした時、上体は自然にやや前屈みになるはずです。それが「日本的」な拍子です。
2b. 手を叩く動作・クラシック編
同じ位置から、今度は、ほんのわずか上に向かって、手を打ち合わせます。打ち合わせた手は、先ほどとは違って、左手は左回りに、右手は右回りに、円を描くようにして(逆回転にしてしまうと「日本式」に近づきます)、繰り返し打ち合わせることになります。打ち合わせる場所は胸か首あたりの高さです。これが「クラシック」の拍子です。2回ごとに叩いたあとの円を少し大きく取れば2拍子、3回ごとなら3拍子、4回ごとなら4拍子(以下5拍子6拍子…と同じ)です。

このようにすれば、「違い」をなんとなく体感していただけるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。少なくとも取っ掛かりにはなりそうです。オーケストラのメンバーに、こうした動作をやってみてもらうことも考えられます。しかしこれでも多少苦しい説明ではあります。「日本的」とした動作でも、ほんの少しアレンジすれば、「クラシック的」な拍子もまったく表現不可能ではないし、その逆もしかりだからです。

さらにまたこの違いを身体動作抜きで言葉にしようとすると、きわめて難しいことになります。まだまだ考えなければならないことがありそうです。