‘In vino veritas’ カテゴリーのアーカイブ

スロヴェニア・ワイン: Cviček

2005年9月13日 火曜日

スロヴェニア・ワインにツヴィチェク Cviček という種類がある。スロヴェニアでは、ブドウの品種名をラベルの真ん中に書いている場合が多く、これもそうかな、と思ったし、ドイツで出版されたスロヴェニア・ガイドブックで、これをブドウの品種であるかのように紹介しているものもある。

Cviček

実際は、各種のブレンドらしい。14種類のブドウのブレンドだと言われたりするが、多分誇張が入っている。おそらくはそのブレンドのしかたがポイントで、生産者によって違うらしく、それでいて、違う生産者が作ったものでも、ツヴィチェクはツヴィチェクだな、という特徴がある。つまりツヴィチェクというのはどうやらあるレンジのブレンドの仕方の名前だということになるようだ。ツヴィチェク生産者のコンソーシアムは、ツヴィチェクと名乗りうるための23条からなる基準を設けているということだ。白でも赤でもロゼでもなく、ツヴィチェクはツヴィチェクなんだと言う。

名称の起源には諸説あるらしいが、クロアチア語で乳精をツヴィツ cvic と呼ぶことや、ドイツ語のバイエルン方言で酸っぱくなりはじめたミルクのことをゲツヴィックト gezwickt と言うことなどが、関連性がありそうなこととして挙げられている。実際、ツヴィチェクはかなり酸味が強い。

この Cviček の名を付けたワインは、だいたいがドレンスカ Dolenjska 地方、つまりサヴァ川の右岸(南側)からその南のクルカ川の流域にかけての地域で作られている。色は透明度の高いルビーの赤。かすかにオレンジや紫の色合いがまじる。かなり酸味が強めで、軽くてさっぱりした味。アルコール度数も9パーセント台と低い。くだんのドイツ製のガイドブックによれば、暑い日の昼食時に一杯飲むのも悪くない。適量なら、眠くもならず、かえってすっきりする。…というのはアルコール分解酵素をたっぷり備えた連中の言い草だろうな、やっぱり。夕食なら魚にも肉にも合うし、食後の一杯にもいい、そうだ。かなり冷やして飲むのが正解に思える。

ドレンスカ地方で自家消費用に作られることが多いらしく、決して「高級ワイン」ではない。リュブリャーナの鉄道駅の前のバスの中央駅の売店(ワイン専門店ではなく、食料品店ですらない)に置かれているたった二種類のワインの片方は、このツヴィチェクだ。その中でも、奥行きのある仕上がりになっている(ベリー類のようなブーケが豊かだし、full であると同時に light である云々)と評されているのが上の写真の「プレテル」 Pletér ブランド。修道僧の線画が目印。ツヴィチェクにしては高いほうだと思うが、スーパー Interšpar で 969SIT(550円)。

下は、バス駅にも置いてあった、一回り安いもの。1リットル瓶で990SIT。KD (Kmečka zadruga) Krško (クルシュコ農業組合)の製品。コルクではなくてスクリューキャップがついている。そしてこういう製品でも、収穫年、生産番号、アルコール度数などが、背面のラベルにきっちり刻字されている。

Cviček2

参考:Wines of Slovenia – Blended wines

Slowenien-Weine.de

カレーにワイン

2005年4月6日 水曜日

まず昔話。

カレーというのは日本の料理。中央・南アジアが「起源」かもしれないけれど、おそらく英国経由でその昔日本に入ったのだろう。そして独特の発達を遂げた。ドイツ人は料理にカレー粉を使うことがある。屋台のソーセージにはカレー味のもの Currywurst も定番になっている。けれども、料理でカレー粉というのはそれほどメジャーではない。
フランス人たちはそもそも辛いものはダメ。かつてフランスの大学にいた知人から聞いたことだけれど、あちらの学生食堂で、ある日、クスクスが出た。フランス人の学生が、”Attention, c’est très fort!!”と叫んでいた。「気をつけろ、すげえ辛いぞ!」 で、食べてみたら、どうってことはなかったという話。
僕はテレビはろくに見ないのだけれど、以前、たまたま、タレントがフランスの家庭に滞在して、カレーライスを作っちゃって、ホストファミリーに妙な顔をされた番組を見た。あの、いろいろなタレントが世界各国で数日間ホームステイして、最後に泣いて抱き合って帰ってくるやつ。まとにかくこれまでのところ普通のフランス人はカレーは食べない。だからかつて西田ひかるがやらされていたフランスを舞台にしたレトルトカレーのコマーシャルには相当な無理がある。もちろんフランスを持ち出すとなぜかおサレな雰囲気になることを狙ったものと思われる。正当性があるとすれば、ブーケガルニとか、まあフランスの市場(マルシェ)でいつでも手に入るようなものが材料として使われていた、というだけのことだろう。

そういうわけで、その昔、ドイツの学生寮にいたとき、日本料理を作って食べさせてくれと言われて、カレーライスを作った。寮は飾り気のない作りの十数階のビルで、その7階に住んでいた。部屋にシャワーとトイレは付いていて、キッチンだけが各階共用だった。一つの階に20部屋ぐらい。7階は仲が良くて、月に一回、「階の食事会」 Etagenessen があった。回り持ちで何か作って振る舞うのだ。その食事会で今度はおまえが何か日本の料理を出せ、と言われて、カレーにした。ドイツ人はカレーライスなど知らない。だからいいじゃん、カレーで。「日本料理」ではないかもしれないけれど、「日本の料理」ではある(インドやタイのそれとは明らかに別物だし)。もちろんルーは使わず、タマネギを飴色に炒めるところから始めて、カレー粉から作った。ドイツの米は長粒米が普通だけれど、韓国系のつてがあって、わりあいおいしい米が手に入った。自分用の米は普段鍋で炊いていたけれども、このときはイラン人学生がなぜか持っていた炊飯器を貸してくれた。階には20部屋ぐらいしかないはずなのに、他の階の連中にも知れて、物珍しさから(単に飢えから?)、30人以上が集まった。何人も手伝ってくれたけれど、30人前の人参やジャガイモの皮を剥いたり、30人分のタマネギを炒めるのはかなりの仕事だった。ちょっとカレー粉を入れすぎて相当な辛さになっていたのだけれども、何杯もおかわりする奴もいて、幸いきれいに売り切れた。飲み物は、カレーに合わないことは分かっていながら、ビールとせいぜいワインしか知らないドイツ人の学生どもにはこれも珍しかろうということで、ドライマティーニ(これもまったく「日本」ではない)を作って出した。

で、別にドライマティーニに限らず、カレーに合う酒はない。だから、カレーというのは日本人の味覚をダメにしているのかもしれない。…という短絡的な仮説を立てていた。(なんで「だから」なんだ、と訊かないでください。短絡的だと言ってるでしょ。)僕自身、立派な日本人として(笑)、カレーライスは好きですけどね。カレーの時でも少し何か飲みたいという人は、ビールあたりで我慢しているのではないか。でも、ヨーロッパの料理であれ中華であれ(本当の)日本料理であれ、なんでもOKのさしものビールも、カレーにはあまり合わない。

最近、この本
勝身利子『ワイン好きの料理ノート』晶文社出版、 1994

を改めて読んでいて、カレーにワインを合わせる記述があることに気づいた。エビカレーにソーテルヌの甘口白ワイン。勝身さんのネタ元はディック・フランシスのミステリ『証拠』だそうだ。フランシスの競馬ミステリは数冊読んだ記憶があるが、ワイン商が主人公というこれは読んだことがなかった。この中に、ソーテルヌは「甘いものならなんでも、それにカレー、ハム、ブルーチーズ」に合う、という台詞があるらしい。

さすがにいきなりソーテルヌ(貴腐ワイン!)というのは値が張りすぎて、ちょっと試すには辛い。だから手軽に手に入るスペインはペネデス Penedès 地方のヘニウスのセミ・ドゥルセ(中甘口)でやってみることにした。(輸入業者や小売店の方、Xèniusを〈ゼ〉ニウスって「翻訳」するのはやめてくださいね。)
勝身さんがお書きになっているとおり、これは案外いける。ドイツの甘口ワインもいいかもしれない。

…これは最近の発見。

xenius.jpg
追記。9. Juni 2005
最近ようやく、ソーテルヌそのものにカレー、を試してみた。カルフールで少し安めのソーテルヌが出ていたからだ。
で、結果は…

またしかに、ソーテルヌの甘さはカレーには決して負けない。一歩も譲らない。カレーのおかげでワインの味が分からなくなってしまうということはない。だが、ハモっている、調和していると言えるかどうかはちょっと微妙なところだ…。

案外、前に試した中甘口の、ぎりぎりカレーに負けそうかなというあたりを、きりっと冷やして合わせるのが、どうしてもカレーにワインということであれば、結局ちょうどいいような気もする。