‘In vino veritas’ カテゴリーのアーカイブ

モーゼルワイン – 医者と墓場?

2008年5月27日 火曜日

Bernkasteler Graben日本のワイン業界にかかわっている人たちの中で、フランス語の分かる人の率は比較的高そうだが、ドイツ語はどうもダメなんじゃないかなという印象がある。(スロヴェニア語は言わずもがな。)

ワイン関連資格試験(ソムリエ/ワインアドバイザー/ワインエキスパート)の出題傾向でも、どうやらドイツ関連だけはかなり偏っていたようで、「ドイツに関する出題は長年、歴史と畑名(しかも日本語訳まで)という他国ではありえない形式で行われ」てきたという(『ワインの合格力 2006』美術出版社による。リンク先は2007年版)。実際、Sonnenuhr という畑の名前を訳させる(正解は「日時計」)ような、ばかばかしいと言えばばかばかしい問題が出題されたりしていたようだ。どちらかというとドイツ語をよく知らない人が、一生懸命それだけ覚え込んで解答するようなタイプの問題だと言える(解く側が当たり前にドイツ語の分かっている人ならば、問題として成立しない)。ただし近年はもう少しバランスのとれた問題になってきているという。

たぶんそうした事情の影響もあるのだろう、モーゼルワインというと、あちこちで話の種にされているのが、ベルンカステルの Doctor という畑。

「今は、廃墟になっている崖上のランズフート城で、14世紀の半ば、トリアーの大司教ベームント2世が重病にかかって、余命はないといわれた。ところが、お見舞いに届けられたワインを飲み、一命を長らえたので、そのワインの生まれた葡萄畑に『ドクトール(医者)』という名前が与えられたという」

と、ドイツワイン広報センターが出している有坂芙美子『ドイツワインアトラス』1994年にも書いてある。Landshut の音訳はランツフートのほうが妥当だと思うが、それはまあいい。この話、ドイツワインって語るべきネタがそんなにないのだろうかと思うくらい、日本語でドイツワインの話となるといつでも、いたるところで、語られている。ドイツ語版 Wikipedia (Bernkasteler Doctor の項)がおそらく正当にも註釈しているように、これはどちらかというと「伝説」、神話の類に属する。同所の記述によれば、この畑が文献上最初に現れるのは1677年のことだという。14世紀に何があったかなんて、確実なこととしては分からないし、Doctor という名前の起こりも、確かなところは闇の中なのだ。19世紀後半から20世紀初頭、イギリスのエドワード7世が、ここのワインを「薬」として飲んでいた(ただの呑んべじゃねーのか?)というのは事実らしい。

しかしそういう伝説が「ある」のは事実。問題はその先で、誰が思いついてしまったのか、日本では、この「医者」畑を、隣接する Graben という畑の名前とペアにして語るのが、一つのパターンになっている。それもおそらくは誤解にもとづいて。

大司教さまの病気を治してしまったから Doctor なんです。で、その隣の畑がなんと「墓場」という名前。ブラックですねえ、ははは、というのがそのパターン。OAGハウスの料理長さんもそういうふうに書いてしまっているし、「ワインのはじめかたDS」にも出てくる。ネット上でも、Bernkastel Graben で検索をかけてみると、出てくる日本語サイトは、モーゼルワインのたんなるリストでも、Graben という畑名の横に、律儀にというか、ほとんど必ず、「墓」と書かれている。

しかし言われている Graben という畑の名前、墓ではないはず。ドイツ語で墓はクラープ Grab。複数ならグレーバー Gräber。グラーベンは、形は似ているが、溝とか、海溝とか、城の堀とか、考古学的な発掘で掘り返されたところとかいった意味。そしてそういう谷状の地形のところの地名として、ドイツ語圏ではあちこちにありふれて見られる。

だいたい、ワインに「墓」なんて名前付けて売るわけないじゃん(もっとも、スロヴェニアには「ゴキブリ」という名前のワインがあったわけだが…)。

そう言えば、かなり以前、『地球の歩き方 ドイツ』に早川東三さんがワイン関係のコラムを書いていて、その中で、やはりモーゼル、クレーフのナックトアルシュ Nacktarsch を紹介していらした。裸の尻。ワインケラーにもぐりこんでワインを飲んでしまっていた子どもたちを発見したお母さんが、お尻ぺんぺんの罰を与えたというストーリーとエチケット絵柄。ここにラベルコレクションがある。あれ? こどもの尻を叩いているのはお母さんだったような気がするが、みんなおやじさんだな。神戸コープがこれの手頃な価格のやつを販売していて、結構飲んでいた覚えがあるが、最近は見ない。で、まあ、これも、名前と絵柄のインパクトで売った面があるけれども、「墓」はないだろうと思う、墓は。

追記:その後調べ直していたら、1998年のソムリエ試験そのものに Graben の日本語訳を問う問題が出ていたらしい。うーむ。まずいのではないかな、それは。初出がこれかどうか分からないが、広めた張本人はこれらしい。

Steinfeder – オーストリア・ワイン入門

2008年5月21日 水曜日

wachau.jpgオーストリアワインのことをあまりよく知らない。

1985年のワイン・スキャンダル(不凍液ジエチレングリコールの混入。ここの記述が詳しい)のイメージが、ぼくにはずっと強かった。その後厳しいワイン法が定められたようだし、考えてみればもう20年以上前の話ではないか。しかし数年前にも、ウィーン近郊のホイリゲのワインの品質はかなりひどいものだという記事を、どこか(たしかドイツ語の記事だったと思う)で読んだ記憶がある。

そんなわけで、オーストリアワインにはあまり関心を抱かずに来た。でも赤白のキャップシールの色で際立つオーストリアワインは、日本のワインショップでも、ときどき見かけるようになった。

オーストリアワインの公式ホームページ(日本語)。
オーストリアのワイン生産地域の見やすい地図もある。これらワイン生産地域が明確に分節されたのも、スキャンダルを受けた1986年のワイン法以降のことらしい。

Der Brockhaus in Text und Bild 2004 によれば、オーストリアでは、5万1千ヘクタールの畑で、230万 hl のワインが作られている。白も赤もあり、品質等級は、Tafelwein, Landwein, Qualitätswein, Prädikatwein に分かれる。ブドウの栽培品種は33種(うち22種が白ブドウ)が認可されている。
白ブドウの中でも、グリューナー・フェルトリーナー、ミュラー・トゥルガウ、ヴェルシュリースリングが、赤ではブラウアー・ポルトゥギーザー、ブラウフレンキッシュが主なところ。
1986年のワイン法で、4つのワイン生産地域(ニーダーエステライヒ、ブルゲンラント、シュタイアーマルク、ウィーン)に分けられ、さらに16のワイン製産地に細分される。たとえばニーダーエステライヒには、ヴァインフィアテル、ヴァッハウ、カンプタール、クレムスタール、トライゼンタール、ドーナウラント、カルヌントゥム、テルメンレギオンが含まれる。ウィーン・ワインはほとんどがホイリガー(新酒)として消費される。以上がブロックハウスの記述。

で、ぼくなりのオーストリアワイン入門(つまり、ぼくが入門するのだ)、まずはヴァッハウに注目してみようと思う。一番上の画像はドナウ川を背景にしたヴァッハウのブドウ畑。ウィーンからドナウ川を遡ると、メルクからクレムスの間の流域がヴァッハウ。そういやこのへん、新婚旅行のときに、船のツアーで行ったような記憶がある。陽に照らされたメルクの修道院の明るいテラスのほかは、一緒だったスイス人の一家が、食後、いっせいにシーハー爪楊枝を使い始めたのをみて、軽いショックを覚えたことぐらいしか覚えていない。

主にドナウ左岸、北側の急峻な斜面にブドウ畑が広がっている。主な品種はグリューナー・フェルトリーナーとリースリング。他にノイブルク、ムスカテラー、ソーヴィニョン・ブランも産する。

日本ではたとえばAWA(オーストリアワイン専門店)で注文できるようだ。

ヴァッハウのワインは、シュタインフェーダー、フェーダーシュピール、スマラークトという独特のカテゴリーに分けられる。それぞれ、すっきり、エレガント、高貴、という形容詞が付されるのだが、このカテゴリー名がちょっと面白い。

それぞれがどういうワインかという説明は、たとえばヴァッハウの生産者グリッチ Gritsch のサイトで読まれる。

Steinfederシュタインフェーダー Steinfeder (文字通りには石の羽)というのは、草の名前。ヴァッハウの園芸店サイトに解説があった(この店ではヴァッハウみやげにシュタインフェーダーのポット苗を売っているらしい)。ヴァッハウのあたりのブドウ畑の高いところ、とくに乾燥したあたりに生える羽毛のような草。乾燥させて、ヴァッハウの男たちは帽子に挿す。ヴァッハウの民族衣装の一部なわけだ。ヴァッハウのワイン生産業者の組合らしき Vinea Wachau のメンバーだけが、Steinfeder の名を冠したワインを出すことができる、とある。

フェーダーシュピール Federspiel (文字通りには羽の遊び)というのは、「野菜果物事典」によれば、「ヴァッハウワインにつけられる中位の等級表示。鷹の羽で作られた道具の意。12.5%以下のアルコール度。カビネットに相当。」だそうだ。(同じ事典には Steinfeder, Smaragd は記載がない。)してみると、シュタインフェーダーがラントヴァイン相当で、スマラークトがプレディカート相当か。

Federspiel.jpg「鷹の羽で作られた道具」ってずいぶん大雑把だが、フェーダーシュピールの画像は、シュタイアーマルクのシュタインツ狩猟博物館のサイトで見つけた。そしてこれがそもそも何の道具なのかという説明は
ブルクドルフ狩猟組合?のページの下の方に出ている。CSSがイカレているのか、Safari だと画像とテクストが重なってしまって見づらいが、鷹匠が若鷹の飛行・狩猟訓練に使ったりする道具らしい。
Flugphasen-Federspiel.gifこの画像も同所から。

Smaragdeidechse.jpgスマラークト Smaragd というのは文字通りにはエメラルド(だから検索するとドイツ語版ポケモン・エメラルドの画像がやたらに出てくる)だが、ブドウ畑の乾いた石垣に姿を現すエメラルド色のトカゲのことらしい。エチケットのモノクロの絵では分からないが、画像をみると、たしかにずいぶん鮮やかなエメラルド色(雄は特に)をしている。
オーストリアの両生類・爬虫類専門サイト herpetofauna.at にオーストリアでの分布地図がある。
体長は最大40センチほどにもなるという。

ちょっと調べ方が足りないので、この項はあとから修正・加筆するかもしれません。

Robert Mondavi

2008年5月17日 土曜日

mondavi_fume_blanc.jpg「カリフォルニアワインの父」ロバート・モンダヴィが亡くなったそうだ。94歳。イタリア移民の2世。

ロバート・モンダヴィについては、輸入元のメルシャンのサイトでも色々と興味深い記事が読める。マルグリット夫人はスイス出身らしい。

ぼくは廉価シリーズの Wood Bridge (そこらのコンビニにも置いてある)しか飲んだことがない。Opus One なんか、飲んでみたいよなあ。

スロヴェニア・ワイン:あぶないラベル

2005年12月9日 金曜日

sibau.jpg
プレシェレン広場に建てられたプレシェレンの銅像、その頭に桂冠をかぶせようとしてる女神が乳房をあらわにしていることで、建設当時は「スキャンダル」となったそうですが、いまではだれも何とも思わない。だからまあ、ブルダの銘醸、Šibau シーバウのこのラベルもほほえましいとでもいうところでしょうか。中身は、とても上質のカヴェルネ・ソヴィニョンです。

でも次のラベルは、ドイツ語の少し分かる人ならちょっとぎょっとするかもしれない。

kindermacher.jpg

Kindermacher というブランド。なぜかドイツ語。ぼくは最初「子づくり」ワインかと思ってしまった(僕だけ?)。
しかしどうもこれ、製造元の解説によると、飲む人を「こどもにしてしまう」という意味で付けられているらしい。このワインは殿方(あえて古い言葉を使っておきますが)を子供にしてしまう。それどころか賢者を馬鹿者にしてしまう、と、その昔の高名な学者、ヴァルヴァゾールがのたまったというのですね。もしかしたらそれも韜晦かもしれませんが。ヴィパーヴァ地方の蔵元で、Vipava 1894、Lanthieri、Kindermacher の三つのブランドで売り出しています。Kindermacher は少し安め、Lanthieri は少し高級品のシリーズらしい。後者の Merlot barrique などはとてもおいしい。

一番インパクトがあるのはこれかな。これはちょっとアブナいですね。
dolfo.jpg
まじめに取るなら、この単純な線画で表現されているのはバッカス神あたりだということなのでしょう。しばらく前は、キレイだけれどもインパクトのないラベルだった(下図)このブランド、目を引くという点では成功しています。いや、ブルダのこの生産者は、赤も白も高品位なワインを造り出しているのであって、ラベルのインパクトだけのこけ脅かしではありません。
dolfo_alt.jpg出典

さて、数日リュブリャーナを離れますので、このブログももしかしたら更新が滞るかもしれません。

スロヴェニアのワイン生産地域 1

2005年12月8日 木曜日

スロヴェニアのワイン生産地域は、大きく三つに分かれます。
ポドラウィエ(ドラヴァ川流域)地域
ポサウィエ(サヴァ川流域)地域
プリモルエ(海岸)地域
sm_zemljevid_slovenije.gif(出典)

weinregionen.png

オーストリアから、ドラヴォグラート Dravograd の近くでスロヴェニアに入り、マリボル、プトゥイ、オルモーシュを通ってクロアチアに至るのがドラヴァ川。この流域の産地がポドラウィエで、ポドラウィエはさらに次の諸地域に分かれます。
Haloze ハロゼ
Ljutmer-Ormož リュトメル・オルモーシュ
Maribor マリボル
Prekmurske gorice プレクムルスケ・ゴリツェ
Ragdona-Kapela ラグドナ・カペラ
Srednje slovenske gorice スレドニエ スロヴェンスケ ゴリツェ

スロヴェニア北西部を源流とし、イェセニツェ、クラン、リュブリャーナ近傍を通り、クシュコ、ブレジツェを通ってクロアチアに入っていくのがサヴァ川。その流域の生産地ポサウィエ地域に含まれる地区は、
Bela Krajina ベラ クライナ
Bizeljsko-Sremič ビゼルスコ・スレミッチ
Dolenjska ドレンスカ
Šmarje-Virštajn シュマルエ・ヴィルシュタイン

海に近い(と言っても直接海に面しているのはコペルだけ)プリモルエ地域
Brda ブルダ
Koper コーペル
Kras クラース(カルスト)
Vipava ヴィパーヴァ

の各地区に分かれます。ボルドーやブルゴーニュ並みのフルボディの赤も産するのは主としてここのブルダとヴィパーヴァ。クラースのテランなど、特異な赤もありますが、他の地区、特にポドラウィエ、ポサウィエ地域は白がメインだと言っていいでしょう。

参考:Winegrowing Regions of Slovenia(上の地図もこのページのものに基づき、見やすいように一部色を変えるなど手を加えたものです。)

スロヴェニア・ワイン:arhivsko vino

2005年12月1日 木曜日

スロヴェニア・ワインの用語2で書いたように、arhivsko vino (アルヒウスコ・ヴィノ、アーカイヴ・ワイン)というのはドイツなどには見られない独特のプレディカート。とんでもない値段かと思うとさにあらず、手頃な値のものも出ていたので、買ってきました。

arhivsko.jpg

今回購入したのは、Ptujska klet (プトゥイ・セラー)の 1987 年のレンスキ・リースリング。そんなに高いものではなくて、1700トラル程度(ちょうど1000円ぐらい)。

もう少し長く寝かされていたものや、品種によっては(ラシュキ・リースリングやトラミネッツなど)これより10年ほど長く置かれてから出荷されるようで、ずっと高価になります。それでも、1971年のラシュキ・リースリングで 18000 トラルというのは、僕にはおいそれと手が出せませんが、決してとんでもない値段ではないのではないでしょうか。

一本一本、セロファンにくるまれていて、口のところは藁ひもで結ばれています。ボトルにラベルは貼付されておらず、エチケットも藁ひもで首に結びつけられています。ボトルは白カビで汚れたままにしてあります。
etiketa.jpg

コルクの表面は黒っぽいカビに覆われ、しっとりと湿って、かなりやわらかくなっています。
plutovina.jpg

グラスに注ぐと、こんな色。ストロボをたいたいい加減なライティングですが、感じはおわかりいただけますでしょうか。
kozarec.jpg

香りと味は…ドライフラワー、ドライフルーツ、ヘーゼルナッツ、蜂蜜の香り。ほどよいフレッシュな酸味があって、甘みはその中にくるみこまれていて、口に含んだときにすごく気持ちがいいし、飲み込んだあとの余韻もいい。…済みません、田崎真也や佐竹城ではないもので、このあたりの語彙が貧困で。(しかもこれですら Julij Nemanič, Janez Bogataj “Wines of Slovenia” によるこのワインに関する記述を下敷きにしていたりします。)

1000円でこれだけ愉しめるなら文句はありません。これほどのリースリングは、アルザス(フランス)には、あるいはもしかしてドイツには、あるかもしれない。しかし1000円ということはあり得ないのではないか。

このアーカイヴ・ワイン、要するに蔵元で熟成するまで最適な管理をしておいてから買わせてくれるわけで、ワインセラーなど持っていなくて、買ったらすぐに開けてしまうような安易な飲み手(僕のことです)にとって有り難いシステムだと思います。また最初からそういうシステムになっているからこそ、ヴィンテージワインが程よい安定した価格で手に入れられるようになっているのでしょう。スロヴェニアのワインが、高品質で、買い得で、さまざまな意味で飲み手に優しいワインであることを典型的に示す例だと思います。

Vinska klet Goriška Brda (ワインセラー・ゴリシュカ・ブルダ)の説明によれば、アーカイヴ・ワインは最低4年は熟成される。セラーの温度と湿度が最適であるなら、ボトルは白カビに覆われる。これを拭ってしまうのは誤り。古いワインは飲む1時間前に開栓しなければならない。できれば注意深くデキャンタージュする。デキャンタージュによってワインの香りと味が開く。ワインはステムの高い大きめのグラスに注ぐ。

そして、こうしたワインは「敬意を持って味わうもので、good connoisseurs にのみ供される」。うーん、デキャンタージュもしていないし、敬意は抱いてますが、good connoisseur であるとは言いがたい僕には飲む資格がなかったのかも。

スロヴェニア・ワインの用語2

2005年11月30日 水曜日

4月に書いたスロヴェニア・ワインの用語1の久々の続編。今回は等級に類する区別について。この点についてのスロヴェニア・ワインの考え方は、ドイツワインの分類法に似ています。

bottles.jpg

namizno vino (ナミズノ・ヴィノ)
テーブルワイン。
(miza = テーブルで、namizno はその形容詞。ちなみに「卓球」は namizni tenis。)
二つのサブカテゴリに分かれる。たんなるテーブルワインは、産地名を称しない。いくつかの地域のブドウのブレンド。「スロヴェニア・ワイン」のシールを貼ることはできない。外国産のブドウ果汁から造られている場合は、その産地国をラベルに明示しなければならない。また、輸入果汁とスロヴェニア産ワインのブレンドはきびしく禁じられている。
テーブルワイン・PGP。PGP の条件をクリアしていなければならない。また、PGP ワイン(およびそれ以上のカテゴリのもの)は、輸入ワインを扱うセラーで貯蔵したり瓶詰めしたりしてはならない。ドイツのラントヴァイン Landwein に相当するものと思われます。(PGP と次の ZKGP については項を改めて触れます。)

kakovostno vino ZKGP (カコヴォストノ・ヴィノ)
(kakovost = 品質、クオリティ)
国内の特定のワイン生産地を明示したワイン。それぞれの地域に適したものとして認められたブドウ品種から造られ、地域のワイン製造慣習に従い、地域のワインとブドウ品種のはっきりした性格を示すものでなければならない。ドイツワインの Q.b.A. (Qualitätswein bestimmter Anbaugebiete 生産地限定上級ワイン)に対応するものと思われます。

vrhunsko vino (ウルフンスコ・ヴィノ)
(vrh = トップ、頂点)
公式に vrhunsko vino とラベル表示される高品位ワインは、スロヴェニア・ワイン生産者組合によって特に厳しく監視される。このラベルを獲得するには、まず kakovostno vino として認められなければならない。使用されるブドウは公式に指定された時期に収穫されなければならず、収穫はあらかじめ記録報告されなければならない。unadultrated must からのみ造られる。糖や濃縮果汁の添加はできない。酸度を上下させる操作も許されていない。
ただし、スパークリングワインの生産には liqueur de tirage の添加が不可欠であるため、その規定は別に定められている。
ドイツワインの Q.m.P. (Qualitätswein mit Prädikat 生産地限定格付上級ワイン)に対応するものと思われます。

ウルフンスコ・ヴィノは、スパークリングワインやバリックのような醸造方法による区別とは別に、自然のプロセスや熟成条件のちがいによって、さらに次のような「プレディカート」が付く。

pozna trgatev (ポズナ・トルガテウ、遅摘み、独:シュペートレーゼ Spätlese)

izbor (イズボル、房選り、独:アウスレーゼ Auslese)

jagodni izbor (ヤゴドニ・イズボル、独:ベーレンアウスレーゼ Beerenauslese)

suhi jagodni izbor (スーヒ・ヤゴドニ・イズボル、独:トロッケンベーレンアウスレーゼ Trockenbeerenauslese)

ledno vino (レドノ・ヴィノ、独:アイスヴァイン Eiswein)

arhivsko vino (アルヒウスコ・ヴィノ、アーカイヴ・ワイン)

ledno vino まではドイツワインの分類とほぼ同じだと思いますが、最後のアルヒウスコはスロヴェニアワイン特有、少なくともドイツには見られないプレディカートのようです。たんに古いワインということではなく、樽とボトルの双方について予め決められた熟成プロセスを経たワイン。その期間はワインのタイプによって異なるが、最低で樽で2年、ボトルで2年。

参考
Wines of Slovenia
Visi-Vin

スロヴェニア・ワイン:二つのリースリング

2005年11月28日 月曜日

スロヴェニアのワインにはリースリングと呼ばれるものが二種類ある。ラシュキ・リースリング Laški Rizling とレンスキ・リースリング Renski Rizling。ドイツやアルザス産のもので知られ、白ワインの王とも呼ばれるリースリング Riesling (White Riesling, Rhein-Riesling) に当たるのはレンスキのほうです。
renski.jpg

レンスキ・リースリングは、スロヴェニアではほぼマリボルをはじめとするドラヴァ川流域の地域(ボドラウィエ Podravje 地域)の独占。ドイツよりも低緯度だから日照の点で有利であり、注意深く収穫されるから、ドイツ産のリースリングよりも香り高いのだ、と主張する人もあります。

写真はポドラウィエの一地区、ハロゼ地区のレンスキ・リースリング。中甘口。616トラル。

ラシュキの方は、このいわゆるリースリングとはまったく無関係らしい。

laski_rizling.jpg

ラシュキは、シャンパーニュ地方(フランス)起源だけれどそこではほとんど造られていない、という記述をしているものもあるものの、ほとんどパンノニア平原の固有種のようなもののようです。つまり、スロヴェニア北東部で国境を接するいくつかの国で造られているだけなのです(イタリアは例外)。クロアチアでは Graševina と呼ばれ、ハンガリーでは Olasz Rizling と呼ばれる。ドイツ語では Welschriesling とも呼ばれ、オーストリアのシュタイアーマルクやブルゲンラントで多く造られている。スロヴェニア語の Laški も、ハンガリー語の Olasz も、ドイツ語の Welsch も、「外国の、ローマ起源の」といった意味合いがあるらしいのですが。

味わいはリースリングによく似ています。スロヴェニアではこの品種は多く生産され、ブレンド用によく使われていますが、単独でもよいワインができます。長期の熟成にも耐えるとのこと。霜や病害に強いため、遅摘みしやすく、トロッケンベーレンアウスレーゼ (suhi jagodni izbor) やアイスヴァイン (ledno vino) にもなります。

上の写真はリュトメル・オルモージュ産のラシュキ・リースリング、2001年。660トラル。
下は同じくリュトメル・オルモージュ産ラシュキ・リースリング、2003年、遅摘み (pozna trgatev)、中甘口 (polsladko)。777トラル。
laski_pt.jpg

参考:
Wines of Slovenia
Slowenien-Weine.de

スロヴェニア・ワイン: Traminec

2005年9月14日 水曜日

Traminec トラミネッツ というのは、名前から推測される通り、ドイツの Gewürztraminer ゲヴュルツトラミーナ のスロヴェニア版。日本ではアルザス(フランス)産のものでよくお目にかかる。この品種がワイン通でもない僕らにとって嬉しいのは、誰だってこの香りと味はゲヴュルツトラミーナだとはっきり分かることだ。いかにもブドウらしい、マスカットのような強い香りと、それでいて、甘口のものはもちろん、辛口に仕上げてあってもフレッシュでありながら優雅にまるい味。

Traminec

ゲヴュルツトラミーナは、1500年ごろにはすでにドイツで栽培されていたというが、古代エジプトまで遡るのだという説もあって、起源はあまりよく分かっていないようだ。栽培は、開花期に強風が吹くとダメだとか、ずいぶん肥沃な土壌でないとダメだとか、案外デリケートで厄介な品種らしい。寝かせておくのには向かない。よほどのプロが繊細な注意を払って保存するのでないかぎり、悪くしてしまう。だから通常は若いものを飲む。

たいていは中甘口から中辛口のレンジだが、甘口〜中甘口の飲み頃温度は8度から10度。これはどちらかというとデザートワイン。中辛口のものは摂氏10度から12度で、ハムや、鱒、鮭などの魚料理に合う。実はトラミネッツ/ゲヴュルツトラミーナは、シナモンの味と香りを引き立てる特質があり、だから「インド・カレーに合う」のだと、たびたび引き合いに出している Wines of Slovenia の著者 Mišo Alkaraj は言っているが、日本のカレーにシナモンって入っていたっけ? いや、カレーは各種香辛料のブレンドなのだから入っていて不思議はないが、少なくとも日本のは別にシナモンの香りが立つということはないよね。(しかし、こだわっているわけではなくて、偶然だけれど、カレーにワインの話はこれで三度目か。)

上の写真のトラミネッツは2004年のものでイェルーザレム・オルモージュ Jeruzalem – Ormož の産、中甘口 polsladko、スーパー Mercator の安売りで740トラル(ユリの花とテーブル、イスは含みません)。400円ちょっと。これでも日本で結構な値段で売られているアルザスの「ゲヴュルツトラミネール」に勝るとも劣らない。

下はラベルの色から「黒トラミネッツ」と呼ばれて、以前からスロヴェニアのトラミネッツを代表する品であるらしい。Radgona の産。こちらは1650SIT(900円ちょっと)。古典的なデザインのラベルの中央上の絵には、Podravje 地域を象徴する鳥除け、クラポテツが描かれている。

Traminec2

スロヴェニア・ワイン: Cviček

2005年9月13日 火曜日

スロヴェニア・ワインにツヴィチェク Cviček という種類がある。スロヴェニアでは、ブドウの品種名をラベルの真ん中に書いている場合が多く、これもそうかな、と思ったし、ドイツで出版されたスロヴェニア・ガイドブックで、これをブドウの品種であるかのように紹介しているものもある。

Cviček

実際は、各種のブレンドらしい。14種類のブドウのブレンドだと言われたりするが、多分誇張が入っている。おそらくはそのブレンドのしかたがポイントで、生産者によって違うらしく、それでいて、違う生産者が作ったものでも、ツヴィチェクはツヴィチェクだな、という特徴がある。つまりツヴィチェクというのはどうやらあるレンジのブレンドの仕方の名前だということになるようだ。ツヴィチェク生産者のコンソーシアムは、ツヴィチェクと名乗りうるための23条からなる基準を設けているということだ。白でも赤でもロゼでもなく、ツヴィチェクはツヴィチェクなんだと言う。

名称の起源には諸説あるらしいが、クロアチア語で乳精をツヴィツ cvic と呼ぶことや、ドイツ語のバイエルン方言で酸っぱくなりはじめたミルクのことをゲツヴィックト gezwickt と言うことなどが、関連性がありそうなこととして挙げられている。実際、ツヴィチェクはかなり酸味が強い。

この Cviček の名を付けたワインは、だいたいがドレンスカ Dolenjska 地方、つまりサヴァ川の右岸(南側)からその南のクルカ川の流域にかけての地域で作られている。色は透明度の高いルビーの赤。かすかにオレンジや紫の色合いがまじる。かなり酸味が強めで、軽くてさっぱりした味。アルコール度数も9パーセント台と低い。くだんのドイツ製のガイドブックによれば、暑い日の昼食時に一杯飲むのも悪くない。適量なら、眠くもならず、かえってすっきりする。…というのはアルコール分解酵素をたっぷり備えた連中の言い草だろうな、やっぱり。夕食なら魚にも肉にも合うし、食後の一杯にもいい、そうだ。かなり冷やして飲むのが正解に思える。

ドレンスカ地方で自家消費用に作られることが多いらしく、決して「高級ワイン」ではない。リュブリャーナの鉄道駅の前のバスの中央駅の売店(ワイン専門店ではなく、食料品店ですらない)に置かれているたった二種類のワインの片方は、このツヴィチェクだ。その中でも、奥行きのある仕上がりになっている(ベリー類のようなブーケが豊かだし、full であると同時に light である云々)と評されているのが上の写真の「プレテル」 Pletér ブランド。修道僧の線画が目印。ツヴィチェクにしては高いほうだと思うが、スーパー Interšpar で 969SIT(550円)。

下は、バス駅にも置いてあった、一回り安いもの。1リットル瓶で990SIT。KD (Kmečka zadruga) Krško (クルシュコ農業組合)の製品。コルクではなくてスクリューキャップがついている。そしてこういう製品でも、収穫年、生産番号、アルコール度数などが、背面のラベルにきっちり刻字されている。

Cviček2

参考:Wines of Slovenia – Blended wines

Slowenien-Weine.de