11月2日日曜日、倶留曽(くろそ)山に行った。奈良と三重の県境、標高1038メートル。とても評判高く人気のあるらしい山で、以前から気になっていた。ずいぶん前のこと、たぶんぼくが関西に来たばかりの頃だったはずだが、六甲かどこか、山の上でたまたま言葉を交わした中年の女性が、関西でおすすめの山は?と訊ねたときに、言下に倶留曽山の名を挙げていたことも印象に残っていた。が、ウチからだと少し遠くて、なかなか行けなかった。その山に、三連休の中日、思い切ってでかけた。
自宅を7時過ぎに出て、JR環状線に乗り継いで鶴橋へ。近鉄の特急に乗り換えて、名張下車。近鉄特急が全席指定とは知らなかった。一本遅らせて、名張到着が少し遅くなった。9:30発曾爾(そに)高原行きのバスを待つ人たちの行列は、すでにたいへんな長さになっていた。例によって、年配の登山客の方々がほとんど。バスは一台増発になったが、列の最後尾だったぼくらには当然座ることはかなわず。しかも、ふつうは旅程40分あまりのところ、この夏、途中の香落渓(かおちだに)でがけ崩れがあって通行止めになっているとかで、バスは大きく迂回路をとり、1時間半もかかるのだった(どこを通っているのかよく分からなかったのだが、後で考えてみると、帰路にも通った太郎生の側から古光山の南をぐるっと回り込んで行ったのではないかと思われる)。子どもたちは運転席のすぐ横に立たせ、前方を見ているようにと言ったのだが、もともと乗り物に弱い下の子供は、やっぱり途中でげろげろやっていた。
あたりは室生火山群とかいう、火山性の地形で、うねるような大きな曲線と、切り立った玄武岩の崖の直線との組み合わせが、ちょっとセクシーだ。バスの終点から林の中の道を少し上ると、「国立曾爾青少年自然の家」の前を通って、広やかなススキの原に出る。たいへんな人出だ。直下まで車で来ている人たちが多いらしい。普通の革靴や、ハイヒールで歩き回っている人も少なくない。大変だと思うのだが。
正面は二本ボソという名のピーク。その直下の急斜面までススキが広がっている。登山道は、その斜面の中腹を、ちょうど大きなくの字を描くように、まず左に、そして右に折れて進む。ススキの原だから、上の方まで、歩いている人たちがよく見える。登りながら見下ろす、凹地状の広い曲面にひろがるススキの原の風景は、独特の美しさがある。ススキの穂が逆光の中で輝く。青蓮寺川の谷をはさんだ向こうには、鎧岳、兜岳の特徴的な山容が見えている。くの字の先は、二本ボソと同じ稜線上の亀山峠(810m)。峠には強い風が吹いていて、最初の登りの汗が一気に冷える。おにぎり(出がけにコンビニで買ってきたやつだ)を一つずつ食べる。
そこから尾根筋を二本ボソに向かう。稜線の左側(奈良県側)はいま上ってきたススキの原。右側(三重県側)は針葉樹に覆われた断崖。このコントラストも印象的だ。二本ボソの少し手前でススキの原は終わり、左側は広葉樹、右側は針葉樹になる。二本ボソの頂上直前に小屋があり、入山料を取る。大人500円、子供200円。紅葉の倶留曽山の写真を配した立派なチケットのようなものを渡される。ここから先、倶留曽山までは、柳原林業なる持ち主の私有地なのだ。小屋の裏手には、この料金所までの「通勤」専用らしいモノレールの軌道がある。山林での物資運搬によく使われる小さいやつだ。ここまで来て戻ろうかと考える人もいる(このときも実際いた──関西人に違いない)ようだが、いったん樹林で失われていた眺望が、このすぐ先の二本ボソの頂上(996m)で、再び一気に広がるのだった。ほぼ360度の眺望。正面にはちょうど紅黄葉に彩られた倶留曽山。ここでもう一つずつおにぎり。
倶留曽山に続く尾根はいったん一気に下り、登り返す。山頂の眺望は、回りの樹々のため、やや限られている。コンロで湯をわかし、カップ麺を食べる。三度目の昼食。なにしろガキどもは、このカップ麺を何よりも楽しみにしているようなのだ。やれやれ。そのうち、もう少しまともな料理もやってみたいと思う。ともかく、重たい2リットルペットボトルの水を半分減らす。ちょっと失敗だったかなと思ったのは、自分用のカップ麺を「激辛」タイプのものにしてしまったことだ。山で食事をしたら、カップ麺の汁といえどもやたらに捨てるわけにはいかない。当然すべて飲んでしまうべきだと思われて、それには激辛というのはちょっと不利なのだった。おまけの「さらに辛くするペースト」なんてのも入れてしまって、それでもどうにかすべて胃に収めた。とそのとき、こどもがまだ半分も食べていない自分のカップ(彼のは「シーフード」)をひっくり返した。あ〜あ。少し冷めるのを待って、麺を大方拾い集め、ゴミ袋に入れる。しかし塩分をたっぷり含んだスープは山頂の土に吸われてしまった…。
気を取り直して、北側にさらに稜線をたどる下山路に入る。次のバスが15:12発。到底間に合いそうにないが、子どもたちはそれに乗るのだと行って駆け降りていく。樹林の中の細い道。倶留曽山までは人がかなり多かったが、この時間、倶留曽山からこちらのこの道を歩いている人はほとんどいない。やがてT字路に行き当たり、右に少し行くと三ツ岩という眺望ポイント。倶留曽山を背後から振り返る。三重県側の眺めがよい。もとの三差路に戻って、杉林の中を西浦峠に下りる。峠から東へ、どこまでも続く暗い杉林の中をジグザグに下り続けて(よくある「七曲り」という名前がついていて、これがけっこう長かった)、ようやく舗装された道路に出る。「池の平分岐」(アスファルトの路面に直接白ペンキで行き先が書かれている)を過ぎて、集落のなかをゆるく下っていく。正面には、大洞山の立派な姿が、すでに傾いた陽に映えている。
中太郎生(なかたろう)のバス停に下りついたのは3時45分くらい。当然12分発には乗れず、その次は5時5分。バス停は造り酒屋の真ん前。かなり大きな構えの店の前は駐車スペースになっていて、隅の方には丸太のテーブルとイスもある。山を下りてきてこの本数の少ないバスを待つ登山客グループが、ここで残りの食料で酒盛りをしていることもあるという。酒屋で、あまごの甘露煮や地酒(その名も倶留曽山という)を土産に買い、子どもたちにはアイスクリームを買い与え、そのまま店の前で時間を潰す。子供二人は勝手にじゃれあっていた。1.5キロほど奥に行けば「姫石の湯」という温泉があったのだが、そこまで行く気力もなかった。
バスがやってきた頃には、山かげの辺りはすっかり暗くなっていた。バスは名張川の谷沿いの夜道を延々と走っていく。子どもたちはそれぞれの席で眠り呆けている。6時少し前、名張駅到着。快速特急で往路を戻り、帰り着いたのは8時ごろ。行きのバスが迂回中で長かったり、帰りのバス待ちが長かったりしたが、それでも行く価値のあるコースだったと思う。
ガイドブックでは、逆コースを紹介していることが多い。ぼくらの歩いた道のそのまま逆か、太郎生から倶留曽山東麓の池の平を行って、亀山峠に登り、倶留曽山を往復してから曾爾に下りるコース。東から西へ、陽の当たる側を追っていくことになり、最後は夕日に照らされるススキの曾爾高原というわけで、盛夏以外はたしかにそのほうがよさそうだ(曾爾側にも「お亀の湯」という温泉がある。しかし曾爾高原を出る最終バスが 15:27 ということだったので、間に合わなくなるリスクが大き過ぎると思い、今回は西から東への方向をとった。山麓に自家用車で乗りつけて、往復するのが一般的なのかもしれない。一番いいのは山麓に一泊ゆっくりすることだろうが。
# この項はあとで画像などを追加する予定です。