「アウトドア」とロープワークと iPhone

bowline_knot.jpg「アウトドア・ブーム」はいつごろからだったろう? まだバブリーだった90年代初頭だろうか。そのアウトドアという言葉が嫌いだった。いまでも違和感がある。ずっと前から山を歩くのが好きだったぼくは、要するに世間で言うアウトドアって、車で林道を走って山の中に入って河原で肉焼いて食って帰ってくることだよな、と思い、けっ、と思っていたのだった。当時自分では車を持つ気がなかったということもある。歩けよ、おまえら。

そういうのはたいてい家族で、つまり親子で、つまりかなり小さな子供を持つ親がやるものなので、小さな子供にあまりハードな道を歩かせるわけにもいかず、そういう年代の構成の家族にとっては、まあ、それなりの意味があることかな、と思うようになったのは、自分で子供(と車)を持ってからだった。

それでも、自分の子供たちには、かなり小さいうちから、コースを選んで歩かせてきた。車で山の河原へ行って肉焼いて帰ってくるだけ、という「アウトドア」に対する違和感は相変わらずだ。この種の「アウトドア」をやっている人たちのマナーの問題もあちこちで再三指摘されている。

そうは言っても、「アウトドアブーム」がぼくらの知見を豊かにしてくれた部分も少しはあるかもしれない。たとえばロープワークに関して。山でザイル必須の岩登りをする人たちは当然昔からよく知っていたのだと思うが(ちなみにザイル Seil というのはたんに英語のロープ rope に対応するドイツ語。日本語としてはもっぱら登山関係で用いられている)、より一般向けに開かれたロープワークの本がちらほら出版されるようになり、そこにぼくらの目が向きやすくなるようになったのは「アウトドアブーム」のおかげではないだろうか。たとえばこんなの。『ロープとひもの結び方―日常生活からアウトドアまでやさしいテクニック145』。ネット上でも、「ロープワーク」などで検索をかけると懇切に説明してくれているサイトがいくつもある。英語では、たとえばここが、他のサイトへのリンクもあって出発点になる。ぬるい山歩き、易しい沢歩きしかしてこなかった僕は、紐の結び方と言えば、固結び(止め結び)と蝶結びぐらいしか知らないのだった。二本のロープを繋ぐテグス結びも、子供の頃、山歩きの指南書で見かけて覚えていたが、これは止め結びを二つ作るだけのことだ。

この夏、プランターでゴーヤやキュウリを作っていたのだが、プランターに支柱を立ててネットを結びつけるのに、そんないい加減な結び方をしていたら、ちょっと重い実がなると、ネットがずるずる落ちてきてしまうのだった。ロープワークの本を参考に結び直したら、ぴたりと決まる。こういう紐・ロープの使い方は、いろいろ知っていた方がいいに決まっている。しかしそれには練習が必要だ。蝶結びだって、だれでもできるけれど、子供がなかなか覚えない。よくよく考えてみると、かなり複雑な操作であることに気づく。自分で子供の頃どうやって覚えたのだか記憶にないのだが、ひたすら繰り返し練習だったか。

上に挙げた本は持っていたが、相変わらずあまりに何も習得していない(本だけ持っていたって、練習しないことには何も覚えられるわけがない)ので、日曜日、東急ハンズに行って、赤いロープと青いロープを2メートルずつ、切り売りしてもらって帰ってきた。本を見ながら「もやい結び」(ブーリン結び)を自分の身体の回りにロープを回して結ぶやり方を、二三回やったら覚えた。子供たちもすぐに覚えたようだ。固定した輪を作って、きつくひっぱってもその輪が締まらない結び方。身体に回したロープが締まってしまったら、あっという間に御陀仏だろう。そうならない、しかし強度のある結び方だ。おそらく「アウトドア」では基本中の基本の結び方の一つ。それすら知らなかったのだった。

もう一冊、赤津孝夫『アウトドア・サバイバル・テクニック』 (OUTDOOR HANDBOOK) 地球丸は、不可欠のロープワークとして、もやい結び、腰かけ結び、下降時の梯替わりの連続止め結びとバタフライノット、木枝を使ってはしごを作るためのてこ結び、そしてその他にロープを収納するための3種類の纏めかたを詳細に紹介している。

沢登りは好きなのだが、上にも書いたように、ザイルのお世話にならなくてもなんとかなるような易しいところばかり選んで歩いてきた。しかし易しいコースであっても、子供を連れていくようになるとことさら、万一のため、ザイルを使った確保の知識や、下降(これも日本ではドイツ語からの借用でアプザイレン abseilen と呼ばれる)の知識は持っていた方がいいに決まっている。そういうわけで、やっとそっち方面の第一歩を踏み出したというところ(ロープワークの「レイト・スターター」?)。この手の事柄は、それこそ生兵法では怪我をするので、まだ実際には当分使えないだろうが。

山のザイル使いであれば、いくつかの結び方を、目をつぶっていてもさっとできなければ、状況によっては生死にかかわる。マリンスポーツでも同様だろう。だからせっせと練習するしかないのだが、それほど差し迫っているわけではない状況で、この場合はどういう結び方がいいんだっけ?という場合もありうる。そういう限られた場合には役立ちそうなのが、Knot Guide という iPhone 用アプリ。¥450。要するに iPhone / iPod touch に入れて持ち歩けるロープワーク・レファレンスだ。英語のみだが、現時点のバージョン 1.1 で、11カテゴリー28種類の結び方を、見やすい画像3〜5枚ほどで教えてくれる。(これのおかげで、日本でブーリン結びと呼ばれるものが bowline knot であることを初めて知った。音訳ではどちらかというとボウリンになる。)類似アプリに Knot Time ¥115、iFishinKnots ¥350というのもある。また、1917年出版のロープワークの参考書の古典をそのまま iPhone で読めるようにした、Knots, Splices and Rope Workも ¥115 で登場した。無料で使える Web アプリ(iPhone/iPod touch に最適化された Web サイト)では、Mobile Knot Guide というのもあるが、ネットに繋がっていないことには使えないわけだから、役立てられるケースはさらに限定されてくるかもしれない。

文字通りの携帯が楽な iPhone は、ある意味で「アウトドア」向きだと言える。レファレンスとしては、赤津孝夫の本にも触れられている「ライフカード」の役割も果たしうるということになる。水に濡れたら御陀仏だし、バッテリーの持ちが少々泣き所だろうか。それ以外にも「アウトドア」系 iPhone アプリでは、GPSロガーとして、すでに評価の高い iTrail などがある。これについては改めて書くかもしれない。

ちなみに、「河原で肉を焼く」ためのグリル・タイマーも、すでに App Store で3種類も出ている。Grill TimerMiGrillGrill Mate。いずれも ¥115。

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