これは、著者からお送りいただいた、冷泉彰彦『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』日本経済新聞出版社 についての暫定的なメモ。
日経プレミアシリーズというちょっといかがわしい新書の中の一冊。民主党 vs 共和党という軸でアメリカ合州国(ここでは故本多秋五の表記にしたがっておく)のあらゆる側面を切ってみせる本は、ありそうでなかったように思う。それだけで一読の価値がある。少なくとも、アメリカのことをろくに知らないぼくのような人間が読んで、アメリカのことがかなり分かったような気になることができる本だ。
民主党 vs 共和党という軸は、もしかしたら、田中宇の、「隠れ多極主義」のアメリカと一国世界支配のアメリカという二項対立軸による解読に対する穏健なアンチテーゼ(もちろん補完的にも読みうる)なのかもしれない。
本書と並行して、廣瀬陽子『コーカサス 国際関係の十字路』集英社 という、これも優れた新書を読んでいた。複雑きわまりない地域の歴史的経済的政治的諸事情をコンパクトに凝縮して、概観にすぎないと言えば概観にすぎないのだが、コーカサスについてあまりに無知なぼくらにはあまりに多くのことを教えてくれる本。その中で、アメリカは、齟齬を含みつつも、あくまでも単一の主体として登場する。それを読みながら、田中宇や、せめて冷泉彰彦のこの視点を、ここにも付加するべきなのだろうな、と思う。
ぼくにとっては、この軸でハリウッド映画を腑分けしてみせる第三章「民主党のカルチャー、共和党のカルチャー」が、映画論としてとりわけ面白かった。
それにしても、大統領選まっただ中のいま、こういうきわものの題材を扱ってさっさと本を書いてしまう冷泉彰彦の手腕と大胆さには、日暮れ過ぎてようやくよろよろと飛び立つ梟のようなぼくは舌を巻く。そういえば、デビュー作『トロイの木馬』も、二〇〇〇年問題という当時の旬の、ということは時期を過ぎれば一挙に賞味が難しくなる事柄を重要なネタとして書かれ、駆け足で出版されたのだった。もちろん、二〇〇〇年が表面上はさしたる事故もなく過ぎ去って旨味を減じた『トロイの木馬』とちがって、民主党/共和党を軸にアメリカを眺める本書は、2008年が過ぎても読むに耐え、読むに値する書物であり続けるだろう。
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