H教授なんて書くと、身近な人たちは誤解しそうだけれど、そんなことについて僕がここに書く理由はない。H教授というのは、リュブリャーナ大学のスロヴェニア文学の先生だ。
昨年度後半、リュブリャーナにいたとき、B先生に紹介していただいたH先生を、リュブリャーナ滞在も終わり近くになって、研究室に訪ね、スロヴェニア文学の現況について、いろいろとお話を伺った。とても気さくな方で、もっと早くにコンタクトをとっていなかったことを後悔した。

H教授のプラム酒
スロヴェニア人はながらく自分たちの国家を持たず、言語・文学こそが彼らのアイデンティティの拠り所になっていたとか、だからスロヴェニア人はとても文学的な民族なのだ、とかいったことはよく言われることなんだけれど、別にスロヴェニアでの文学の地位は、たとえばドイツなどの国以上のものではない、スロヴェニア人が文学的国民だというのは一種の神話だ、といった認識を披瀝してくださって、ああ、なるほどと思い、すごく健全だなとも思った。
のだが、それがここで書こうと思うポイントではない。面白かったのは、先生の研究室に入ってまず出していただいたのが、テランのリキュールだったことだ。
テランは、前のエントリでも書いているが、スロヴェニアのカルスト地方の地域固有種のワイン。研究室をお訪ねしたとき、H先生が真っ先に冷蔵庫から出してくださったのは、コーヒーでも紅茶でもなく、それから作ったリキュールだった。僕のこのブログのことをご存知で、日本語は分からないながら、スロヴェニアのワインのことをずいぶん書いていることは写真などから読み取っていただいていたらしく、そうでなかったらコーヒーが出てきたのかもしれない。
カルストのテランから作ったワインは、これも以前に書いたように、独特の色合いと強い酸味があり、やはりカルスト産の生ハムに、当然のようにぴったりと合う。それは時々飲んでいたのだけれど、たまに店で見かけるリキュールのほうは、手が出ない値段ではないけれどもちょっと値が張って、自分で買ってみる機会を逸した。そいつと、大学の先生の研究室で初対面。テランの味が凝縮された、酸味の中に甘さを感じさせる舌触りだった、ような気がする(こんなだからソムリエにはなれない)。
そいつを味わいながらいろいろとお話を伺い、しばしば文学の話からも逸れてさまざまな雑談に及んだ。でもここでとりあえずもう一つ書いておきたいのはあくまでもその話の中身ではなくて、帰りがけにH先生からいただいたお土産だ。それは、自家製のプラムの焼酎。上の画像がそれ。15ml くらいの小ビンにコルクの栓、そしてお手製のラベル。2003年に収穫したプラムから200リットルの果汁を搾り、そこから10リットルの酒を蒸留したといった説明が書いてあって、どこか戸外で焼酎を酌み交わす二人の男の古い写真が配してある。
以前にも書いたように、スロヴェニアでは庭のあるところならたいてい果樹が植えられていて、果物があればそこから自家製焼酎 domače žganje を造るのがさかん。日本の梅酒などのようにホワイトリカーに漬け込むのではない。ちゃんと蒸留するのだ。この酒もH先生のお宅で収穫したプラムを使って、でも酒にしたのは近所の人だそうだ。
あんまり簡単に一般化してはいけないけれど、大学の先生の研究室から自家製焼酎をお土産にいただいて帰るなんざ、ありうるとすればスロヴェニア、なのかもしれない。
日本まで大事に持ち帰ったのだが、しばらくするとすっかり空になっていた。家人も子どもたちも飲んでいないという。おかしいなあ。
H先生は、外国人向けの、スロヴェニア語旅行会話集のようなものも書いていらっしゃる。現在は絶版だが、その内容は Web 上で公開されている。対訳・解説は英語。あの本はけっこう使いましたよ、と言うと、これの音声素材を収録した CD を後日わざわざお送りいただいた。そのうち、日本の学習者用に編集して公開できたらいいなと思っている。
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(1) 身近な人々が誤解しそうな方のH教授の部屋にもアルコールはありましたけどね。
(2) 「ラテンのリキュール」って何だろう、としばし考え込み、読み間違っていたのに気づきました。リキュール飲みながら談義できる研究室、いいなぁ。
(3) 果樹が植えられるような庭がほしいですね。これまたうらやましいの一言に尽きる。
(4) 「すっかり空になっていた」のミステリー、真相は何なんですか? 気になる。
tsujigaku さん、久々のコメントどうも。ってエントリそのものが久々か。
(2)ラテンのリキュールならグラッパかテキーラか。大学生には未成年もいるわけで、気をつけないと。院担当になればいいのか。
(3)ウチはベランダでブラックベリーやラズベリーが頑張ってます。リンゴやプラムは難しいかな。
(4)もちろん、飲んだのはたぶん私です。お粗末。