盲窓

ぼーっとしているうちに、リュブリャーナにいられるのもあとちょうど1ヶ月ほどになってしまいました。スロヴェニアやスロヴェニア語の勉強を細々と続け、残りの時間をどう使おうか、そろそろ帰国時の荷物をどうするか考えなければいけないな、などと思案し、子供のためのケケッツ・シリーズの翻訳を続けながら、こちらで片付けるつもりだった(ShimKさんふうに言えば)D書の翻訳を今頃になってせっせとやっていたりします。

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D書というのは実は例によってハントケの作品なのですが、ハントケにとって言葉が事物に対する目を開いてくれるということは一貫して重要なことであって、かつて拙訳で出した『反復』でもそれは同じ。そこでは、ことにスロヴェニア語の単語が、主人公に周囲の事物を見えさせてくれるということが重要なポイントになっています。ハイデガー=現象学ふうのジャーゴンで言えば、アポファイネスタイというやつ。

たとえば、作品中で重要な役割を果たす「盲窓」という言葉/イメージがあります。これは特にスロヴェニア語固有の語彙と言うわけではありません。ハントケはもっぱらドイツ語の blindes Fenster を使っていたはず。ちなみにスロヴェニア語では slepo okno。要するにただの壁なのだけれども、窓のような形に窪ませてある、そういう建築上の意匠です。この盲窓は、オーストリアのほか、かつてハプスブルクの支配地域だったところにはよく見られる。(ある方の論文で、ハントケがここで使っている盲窓をなぜか「磨りガラスの窓」と「解釈」しているのがあって、あらら、と思ったことがありますけれども。)

ところで、僕が日本で勤めている大学の建築は、もともと、一頃世上の話題にのぼっていたヴォリーズの設計で、「スペイン・コロニアル様式」と呼ばれている。(この「コロニアル」という単語を嫌って「スペイン・ミッション様式」と呼ぶ向きもあります。でもそれはそれで、往時のコロニアリズムと宣教師たちの切っても切れない関係を際立たせるだけではないかと思うのですが…。)近頃の新築・増築も、ヴォリーズの様式を薄めた形で進められている。少なくともキャンパスの美しさには定評がある大学です。そして実はこのキャンパスに「盲窓」がたくさんある。しかしこの言葉を知らない人は、日々目にしていながら、それと気づいてはいないんですね。僕自身、『反復』によって盲窓という単語を教えられて、それで初めて、日本ではあまり見かけるものではないそれが、自分の周囲に、よりによって勤め先に、たくさんあることに気づいたのでした。

で、この盲窓、もとハプスブルクのスロヴェニアにはいくらでもある。上の写真は、リュブリャーナのウチの近くの、大学神学部の建物の盲窓。下は、先日行った古い街シュコフィヤ・ローカの古い建物の盲窓。
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『反復』は、オーストリア側のケルンテン出身の少年がスロヴェニアを旅してまわる物語ですが、その主人公もいたるところで盲窓に出会う。そしてそれは、彼にとって、なぜか「まだ時間はある」という「しるし」になっています。
ウチの真ん前のギムナジウムの三階建ての校舎も、側面の各階の角に近いところは盲窓になっている。ベランダにすわって、6つの盲窓を眺めて、さて、自分には「まだ時間はある」のだろうか、と訝るこのごろ。

コメント / トラックバック6件

  1. chiekoisland より:

    こんにちは!
    数少ないスロベニアブログ、楽しく読ませていただいています。
    縁があって私ももう4〜5回、スロベニアに行っていますが、
    毎回訪れる際にLJのブレック屋に行きます。
    シティホテルの通りを駅に向かってまっすぐ歩いたところにある、
    24時間営業のブレック屋さんです。
    滞在がもう残り少ないようですので、機会があれば試してみてください。
    チーズと、ピザとミート味があるのですが、
    特にお肉(メスニ?)の味がオススメです! :)

  2. takuya より:

    チエコ・島さん(?)、はじめまして。コメントありがとうございます。
    ああ、ありますね、Miklošičeva 通りに。あることは知っていました。今度行ってみたいと思います。
    また何かいい情報がありましたら教えてください!

  3. Ikkoro より:

    こんにちは、はじめまして!
    いつも楽しく読ませていただいております。
    今年の夏からそちらに初めて住むことになっています。
    参考になる情報ばかりで、私にとって本当に心強いブログです。
    まだまだ、知りたいことがたくさんあり、これからも楽しみに読ませていただきます。

  4. takuya より:

    ikkoro さん、はじめまして。
    この夏からお住まいですか。それではもう少し「実用的」な情報も載せるように心がけましょう。 :)
    「リュブリャーナ日記」はあとわずかですが、どうぞよろしくお願いします。

  5. chiekoisland より:

    す、すいません。。。シティホテルじゃなくてユニオンでした!!
    恥ずかしい。。。 :-O
    でも、通りの名前が当たってるので、きっと大丈夫です!

    駅前バスターミナル正面にあるマンションの1階(kolodvorska ulicaから入れる)に
    これまたおいしいケバブ屋さんがあります。。。
    ヨーグルトマヨネーズがおいしいです。

    ついでに、チボリ公園に、馬肉のハンバーガーがあります!
    とっても大きいハンバーガーです!もちろん加熱で。
    なかなか日本でも食べることは無いと思うので、これまたおすすめですよ〜! :x

    B級グルメガイドになってしまいました・・・。

  6. takuya より:

    City Hotel もミクロシチェーヴァからちょっと横に入って行けますから。 :)
    駅前のケバブ屋さんにチボリの馬肉ハンバーガーですか。知らなかった。まさに実用的な情報!?ありがとうございました。

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