Agnes und seine Brüder (2004)



DVDのカバーを見て、映画を見始めてから、まず、やられた、と思った。タイトルは「アグネスと〈彼の〉兄弟」となっているではないか。つまりアグネスというのは性同一性障害の男で、これは三兄弟の物語なのだ。このトリックにはドイツ人たちも案外引っかかっているらしく、ボーナス・マテリアルに収められた街頭インタビューでこの映画のタイトルを言わされた人の多く(もちろんまだ観ていなかった人たちだろう)は、「アグネスと彼女の兄弟」と答えていた。政界で活躍するヴェルナー、図書館の司書のハンス=イェルク、いまはダンサーのアグネスの三兄弟。それぞれにぶっ壊れた人生を抱えている。

ヴェルナー(ヘルベルト・クナウプ)は、緑の党の政治家として政界では成功しているものの、家庭は完全に崩壊している。妻(カーチャ・リーマン)は彼を拒否し、息子(トム・シリング)はあらゆる機会をとらえて彼に反抗する。ハンス=イェルク(モーリツ・ブライプトロイ)は女たちには少しも相手にされないいわゆる色情狂。アグネス(マルティン・ヴァイス)は先述のように性同一性障害で、現在は「女」としてダンサーをやっており、「彼氏」にアパートを追い出されてしまう。

ぶっ壊れた家庭というのは近頃のドイツ映画の与件、大前提みたいになっていて、もう少し違う視点、違う切り口はないのかなあとも思う。だが、この映画でも、家庭をめぐる問題、性をめぐる問題の、それもかなり醜悪なものが扱われているものの、それが不思議とあまりいやな後味を残さない。カバーのタイトルの下に、サブタイトルのように小さく、”…auf dem Weg ins Glück” と書かれていて、つまり三人がそれぞれに幸福を探し求め、そのトバ口らしき所に立った時点で映画は終わっている。DVDカバーに引用された各紙の評言のなかでも、「面白く、感銘深く、優しく…容赦ない」という南ドイツ新聞の文句がすべてを捉えているようだ。

映画そのものにはあまり関係ない話だけれど、ふと思ったのは、島嶼の日本との違い。最後にハンス=イエルクと車で逃走しながら、彼がようやく出会った彼女が口にする行き先、「バグダッド」というのは、バグダッドの人たちには失礼だけれども、地の果てといったイメージでしかないだろう。でも、実際そこまで車で行こうと思えば行けてしまう、地続きの感覚は、日本の道路を車で走っていても生じようがない。この感覚の違いには何か決定的なものがある。

オスカー・レーラー監督。ドイツ語、字幕なし、112分。ドイツでは16歳以上の指定。

…書いてから気づいたけれど、ドイツ映画祭2005ですでに日本でも公開済みでしたね。

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