荷物

日本から送った段ボール5箱が届いた。というか取ってきた。

万事いい加減なもので、日本を出るときには、引っ越し荷物をどこ宛てに送ったものか、分かっていなかった。とりあえず段ボールに詰めて、家人の実家に送っておいた。こちらに来てから、リュブリャーナ大学の日本語学科の住所を確認して、そこ宛てに発送してもらい、その後、住むアパートを決めた。ちょうどその頃、学科のB先生から、郵便局から書類が来ている、という連絡を受けてその書類を貰いに大学へ行く。そこには、リュブリャーナの街外れの郵便局に出頭せよと書いてあった。中心部からはかなり離れていて、1番線のバスで十数分、乗ってでかけた。

郊外の Cesta v Mestni log という長くまっすぐな通りの真ん中辺に、地図上では郵便局のマークがあって、その小さな郵便局へ行ったら、見当違いだと教えられた。目指すべきは同じ通りの、バスで一駅以上先の、大きな集配局で、国際郵便や荷物を扱うセンターになっているらしい。街の郵便局に使われるマーク(ドイツなどと同じ黄色地にポストホルン)が、地図上ではここには描かれていないから、見落とした。あとで地図をよくよく見ると、小さな字で Pošta Slovenije と書かれていた。

久しぶりに夏が戻ってきたような九月初頭の昼下がり、回りに何もないようなまっすぐな道路をそこまで歩く。まだ若くて細い並木はなんの蔭も落としておらず、久しぶりに汗をかく。一階の窓口で、carinska pošta (税関郵便局?)はどこかと尋ねると、左手の downstairs だと言うから行ってみたら実は2階に上るのだった。がらんとした空間には二つの窓口があって、その一つに仏頂面の中年の女性が座っていた。届いた書類をみせて、ここでいいのか、と尋ねると、然りという答え。申し訳ないながら、ややこしくなる可能性のある話をスロヴェニア語でやる自信はなかったから、ドイツ語か英語でいいですか、と尋ねると、英語、と言う。品物の内容は、と訊かれ、personal use のための私物、新品はない、とお決まりの返事をする。実際、中身は、大半が冬用の衣類や、すり切れた本や、和食の食材少々。それで終わりかと思ったら、差し出した書類の裏に、そういう内容のものであることを保証すると書いて署名せよ、と言う。さらに、送り状に書かれている内容物の金額に agree すると書いて署名せよと言い出す。ちょっと妙な言い回しだなと思いながら、言われた通りにする。あなたは関税を払わなければいけない。よいか、と言うから、いくらか、と尋ねると、分からない、という答え。まさかさほどの金額ではあるまいと思い、OK、と応える。こちらでもう一つお聞きしたいことというか、お願いしたいことがある、荷物に書かれた大学のアドレスは、発送時点でリュブリャーナでの住居が決まっていなかったから仮に書いたものだ。今現在は住まいが決まり、中心部のアパートに住んでいる。そちらまで配達してもらえないだろうか、と言うと、大丈夫だ、と言う。それから奥に引っ込んでしまった。大きなホールに、僕の他には、やはり待たされているカップルが一組、窓口からずっと遠い窓際のベンチに座っているだけだった。

二十分ほども待たされただろうか。窓口から手招きされて行くと、合計6万3千トラルあまりの関税を払えと言う。ここで粘って交渉すべきだったのかもしれないが、正しい日本人らしく、面倒になって、了解する。そもそもこの金額を言ってくる前にあの「署名」をさせるのはヘンだよな。たぶん、荷物に、内容物の金額を馬鹿正直に(それでもいくらか少なめにだったが)書いたのがいけなかったのだろう。段ボールの一つにはプリンタも入っていて、保険も一応かかっていた。もっとずっと小さい額を書いておくべきだったのだ。それにしても高い。ドイツに行った時は、こんなことはなかったような気がする。いったいどういう計算をしているんだか。

で、現金はあるか、と言われて、さあ、どうかなあと言いながら財布の中身を確かめると、ここに来る直前、日常の出費のために下ろしておいた6万トラルと、わずかな札で、ぎりぎり足りる金額が入っていたので出す。するとつい先ほどから窓口に加わっていた髭のおじさんが、巨大な買い物カートのようなカゴに段ボール箱5つを放り込んでガラガラ押してくる。ちょっと待ってくれ、配達してほしいと言ったんだけど、というと、そうかそうか、それなら関税の支払いは配達の時でいい、と言うので、金を財布にまたしまう。配達料(ドイツなどではありうる)が別途かかりますかと尋ねると、それはいらないという答え。そこで、配達してもらうには新住所もお伝えしなければいけませんね、と言うと、おじさんは、表情を変えて、それはできないと言う。おばさんを指して、さっきあんたの同僚は大丈夫だと言ったではないか、と言っても、それはできない、の一点張り。まあ、おばさんの方が間違っていて、そういう規則だったとすれば、一点張りしかあるまいが。今ここで引き取って自分で持っていくか、書かれている大学の方に配達するかのどっちかだ、と言う。しかし僕は車など持っていないですよ(レンタカーはうかつにも前日に返してしまっていた)。ならタクシーを呼べ。タクシーの番号なんて知らないんだけれど、と言うと、おばさんは自分の携帯に入っていた番号を教えてくれる。携帯は自分でも持っていたから、教えられた番号にかけ、出た男に今〜通りの郵便局にいて、来て欲しいのだけれど、荷物も運んで欲しい、と言うと、電話の向こうからは、ああ、あんたはタクシーが入り用なのか、俺はもうタクシーはやっていない、とのお返事。友達の電話を教えるからそっちにかけな。で、かけ直すと、こちらは明るい声の男が即座にオーケーしてきた。でも十五分くらいはかかるよ。もう一度財布から有り金を全部出して、巨大なカートをごろごろ押してエレベーターに乗り、郵便局の外に出て、強い日差しの中、カートに寄り掛かってタクシーを待つ。

ようやく来たタクシーの運転手は若い男で、郵便局員とは対照的に、ぺらぺらとよく英語をしゃべった。料金はいくらぐらいになるかな、と尋ねると、千トラルぐらいだという。僕は、自分の携帯を出して、あんたに払うには妻に電話してお金を用意させなければ、関税で身ぐるみ剥がれてしまったからね。いくらと訊かれて額を答えると、運転手はヒュウと口笛を吹いた。

まあ、外国に住もうというときにはよくある情景の一つにすぎないとも言える。

でも、巨大なホールで待たされていたとき、壁のポスターや料金表を眺めていた。その一枚は国際速達便の料金表で、「私どものところでは世界は狭くなります」といった文句がスロヴェニア語で書かれていた。

ま、僕はやっぱりもっとスロヴェニア語を勉強しなくてはいけないな。

コメント / トラックバック3件

  1. tsujigaku より:

    うっそー! 6万3000トラルって、だいたい11万円強じゃないんですか!? 計算違い? 信じられない税金だ。ぼったくりじゃねーの? よくおとなしく払いましたね。

    でもわかる気もする。面倒臭いしな。気分的にも体力的にも疲れているときに外国語でそんな値段交渉するなんて。

  2. Takuya より:

    いや、そんなにはしませんよ。たぶん3万7千円ぐらい。
    それにしても多いですよね。

  3. Takuya より:

    そういえば、Mac OS X の「計算機」は、レート換算ができます。「換算」メニューから、まず「通貨交換レートをアップデート」を選びます。換算したい金額を入れ、「換算」メニューの「通貨…」を選ぶと、元の通貨と換算後の通貨を選択するシートが出るので(ここでも「通貨交換レートをアップデート」は可能)、それぞれ決めてから OK します。

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