Piran ピラン (2)

ペーター・ハントケの大作『無人の入り江の一年』には、さまざまな旅とさまざまな土地が登場する。ピランもその一つ。語り手の息子ヴァレンティンが訪れた2月のピランについてはこんな具合だ:

静かなピランの湾にこんな防波堤が要るとは思えなかったが、しかしその先の、灯台のある punta で、ヴァレンティンは、壁ほどの高さに盛り上がった砂利の山に出くわした。最近の暴風の高波で、舗道の防護壁を越え、岬の突端の家々の足元にまで放り出された海底の砂利だ。以前の高波では近くの湾のシュトルンヤンの塩田が砂利に埋まってしまった。[...]

彼は、「私の」塩田はピランの製塩博物館で写真で見ただけだった。博物館には、ほかに、最小の水門として使われたトウモロコシの芯、たった一つの共同の窯で焼くパンのための製塩家ごとに異なったパンの用刻印、このあたりのきつい日差しのため特別につばの広い、眼や鼻も守る帽子もあった。[...] シュロの独特の灰色[...]

岬の街ピラン。三角形の小さな岬がそのままびっしりと建て込んだ街になっている。岬の付け根には港があって、漁船よりもヨットが目立つ。ポルトロージュから丘を越えて来る道は、この港の脇に降りる。ハントケのテクストで製塩博物館と呼ばれている「海の博物館」も、港の奥にある。その少し奥が、楕円形の広場になっていて、ヴァイオリンを手にしたタルティーニの像が潮風に緑青を吹いて建っている。ここの生まれなのだ。広場の名前もタルティーニ広場。(そういや、「悪魔のトリル」って、弾いてみたことがない。今度どこかで譜面を手に入れよう。)かつてはここも港だったらしいが、早々に埋め立てられたようだ。ロータリー状になった中央の楕円の舗石はつるつるに磨かれていて、コンサートなどのイベントに使われる。70歳ぐらいに見えるローラーブレードを履いた男が曲芸的な滑走の練習をしていた。よそ者か地元民かは分からない。

港から、小さな灯台のある岬の突端 (punta) へは、いくらか幅の広いプロムナードになっていて、レストランが並ぶ。このプロムナードの水際にそって、一抱え以上もあるような巨岩がずっと積まれており、これが護岸の役割を果たしている。道は岬を回り込んだ北側までぐるりと続き、この北側のトリエステ湾に面した部分が主な海水浴場になっている。その先は、あの教会の丘直下の断崖がまっすぐ海に落ち込んでいるが、干潮時にはわずかな幅の砂利浜になり、岬の北側の付け根まで続く。そのあたりは非公式のヌーディスト(ドイツ語で言うFKK)・ゾーンになっている。気持ちよさそうな気もするが、参加したことはない(たぶん大部分はドイツ人だ)。手前の浜にも、地中海岸らしくちらほらトップレスが増えていたが、あまり目の保養になるケースは多くなかった。

初めてピランを訪れたのも、94年か96年のことだと思う。そのとき、海に面した道からはちょっと引っ込んだ小さな広場に面したDというレストランで食事をした。料理のことはよく覚えていないが、不味かった記憶はない。たぶん魚料理に満足したのだと思う。南欧的な、オープンな作りの店構えだった。その店が、2000年に行った時には改装されていた。白い壁の仕切りが増えて、小奇麗になっていた。主人(たしかズラトコといった)に改修したんですねと言うと、「ちょっぴりヨーロッパ的になったのだ」と応えた。その表情は少しはにかんでいるようにも、少し恥ずかしげなようにも見えた。

今回、Dには行きそびれてしまった。やはり感じた「豊かさ」は車に関わる。ピランは、外の車は入れない。タルティーニ広場の周囲にあるホテルまで荷物を運ぶことは許されているが、それ以外は、港よりもずっとポルトロージュ寄りの駐車場に車を置いていかなければならない。路線バスも街の手前で折り返す。(数年前から、ピラン-ポルトローシュ-ルツィヤ間をミニバスが走るようになり、これはタルティーニ広場まで入る。)ピランの立地からして当然の措置だ。それが、今回はタルティーニ広場の周囲に、出すときはどうするのだろうと思うぐらいびっしりと車がとめられていて、1、2本裏の道でも、車が入るだけの余地のある道(ないほうが多い)には、数多くの車がとまっていた。ほとんどが住民の車のはずだ。

丘の上の大きな教会は、かつてしきりに改修資金の寄付を求めていた。大きな空間の内部は、ほこりっぽい、灰色のイメージが残っている。今年は、その改修がようやく本格的に始まっていて、内部に足場が組まれ、入れなくなっていた。鐘楼の修理は終わったようで、ヨーロッパのあちらこちらでよくあるように、金を取って登らせるようになっていた。教会前の草地からは、断崖の下の北側の海が見下ろせたのだが、そこにも入れなかった。(教会から punta のほうに降りていく道の途中や、岬の付け根の城壁の上からは、相変わらず翡翠色の海が見下ろせる。)

Piraner See

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  1. Piranピラン, Slovenia スロベニア
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