キプロス旅行のあとの冬学期、大学の、ディエス・アカデミクス Dies academicus (日本語でいうオープン・キャンパスみたいなものか)の、室内楽コンサートでも、クリスティアーネは僕を相棒に指名してくれた。モーツァルト・プロで、1曲めがディヴェルティメント11番、2曲めがグラン・パルティータだった。グラン・パルティータは管の曲だから、乗ったのは1曲め。Nannerl の七重奏とも呼ばれる、オーボエソロの美しい曲だ。会場は、大学本館内の祝祭ホール Festsaal。もともとこの大学本館は、かつてのケルン選帝侯の宮殿だった建物で、黄色に塗られた外観は、隣接するホーフガルテンの緑地とあいまってとても美しい。
写真はたとえばこことかここ。
だが、内部は大部分がただの質素な白壁の教室になっている。そのなかで、このホールとチャペルだけはかつての宮殿の華麗な面影を残す空間になっている。
再びクリスティアーネがファーストヴァイオリン、僕がセカンドヴァイオリン。これは結構きつかった。変奏曲になっているメヌエット楽章、その第三変奏は、ファーストヴァイオリンがシンプルな旋律を弾いている下で、セカンドヴァイオリンが細かい音符で走り回らなければいけない。ファーストよりセカンドがきつい曲の典型だ。いや、譜面づらはそれほどものすごいものではないし、かなり練習したはずだけれど、どうも手のうちに入った感じがしないまま、本番を迎えてしまった。実際、大きなキズはなく、聞きにきていたオケのメンバーたちは良かったと褒めてくれたものの、自分では納得がいかなくて落ち込んだ。
問題はもう一つあった。この曲の練習に気を取られていて、オケの練習のほうはしばらくサボっていたのだ。それが、この本番前のステリハのとき、オケの指揮者先生が直々に僕のところへやってきて、オケは出ないのか、と問いつめたのだ。もちろんサボっていた方が悪いのだけれど、よりによってピリピリしている本番直前のこんなときにやってくるとはどういう神経か、と思ってしまった。出るのか、出ないのかと問われて、これからステージで弾く曲のことで頭がいっぱいだった僕は、少し考えさせてくださいと答える。と、いや、イエスかノーかだという。ならノーと言いましょう。そういうわけで、大学オケは半年あまりで辞めた。あとになって、指揮者の息子のヴォルフガングづてに、何度か、また来ないかと声をかけてもらったけれども、もう戻らなかった。(いや、およそ10年後、再び1年間ボンに滞在した時、僕はこの大学オケに舞い戻った。しかしそのときにはすでに指揮者は代替わりしていた。そのことはいずれまた書くことになるだろう。)
実は、前のバリーの曲の初演コンサートでも、このコンサートでもコントラバスを弾いていたトーマスが、別の市民オケに引っ張ってくれていたのだった。ボンナー・シンフォニエッタ Bonner Sinfonietta。同じアマオケでも、ボン暮らしの最初に覗いたグロースおばちゃんのオケとはくらべものにならない、いいオケだった。もちろん大学のオケもよかったけれども。
Dies Academicus のコンサートでディヴェルティメントのコントラバスを弾いていたトーマスは、グラン・パルティータでは指揮をしていた。(作曲家のバリーもホルンを吹いていた。)トーマスはブルターニュ出身のフランス人で、だからトマと呼ぶべきかもしれないが、ドイツ式にトーマスと呼ばれていた。その指揮はなんとも生硬だったが、音楽が彼の専門だった。大学オケには入っていなかったし、そもそもボン大学の学生ではなかった。たぶんケルンの音大に籍があったのだろう。どうやって食べていたのか、よく知らないが、僕のいた学生寮の近くのアパートで、ドイツ人なのにとてもかわいい奥さんのユーディットと、生まれたばかりの息子のザムエルと暮らしていた。
その後はこの Bonner Sinfonietta で、いくつもの楽しい時間を過ごした。
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Dies academicus って、オープンキャンパスというより、創立記念日なんじゃないでしょうか。チューリヒ大学は実際、創立記念日として設定しています。
http://www.unizh.ch/admin/rektorbereich/dies/index.html
ベルン大学は、12月の第1土曜日ってことにしてるから、創立記念「日」というより、創立記念祭ってな感じかもしれません。
http://www.advd.unibe.ch/ad/dies_academicus/dies.html
Stiftungsfeier って書いてるから、やっぱりそうなんでしょう。
頑張っていろいろ行事を定めているから(優秀な学位論文への賞や、名誉学位の授与をしたり)、「オープンキャンパス」はちと可哀想な気が。まさか商品は、学校マーク入りの文房具と紙袋でもないでしょうし。
すみません。最終行訂正。「商品」じゃなくて「賞品」でした。
あらら。そうなんですか。ボン大学の dies のページにはそれらしい言葉は見当たらないようです。あまり隅々まで見ていませんけど。
http://www.uni-bonn.de/Studium/Studium_Universale/Dies_Academicus.html
んで、Duden に言わせると、
vorlesungsfreier Tag an der Universität, an dem eine Feier od. allgemeine Vorträge angesetzt sind.
とのことなんで、「創立記念」ではなくてもいいような感じです。ボンの場合はさらに、Studium Universale の下位に Dies academicus が位置づけられているので、強いて言えば「オープン・キャンパス」かなと。もちろん、受験してくれそうな高校生相手の宣伝の意味が強い日本のそれとはまったく異なりますが。
要するにボンの場合はそういう位置づけだけれども、Dies academicus (直訳すれば大学の日?)というのは、かなり幅があって、創立記念祭だったりすることもあるということでしょうか。
ドイツ語版Wikipediaによれば、確かに高校生などを相手にしたオープンキャンパス的意味合いを持った日のようですね。ただ Dies academicus はしばしば創立記念日に行われるとあるので、僕はそっちの面だけを知っていたということのようです。